富士山 吉田ルート
山小屋が連なり、岩場を登るルート。
山小屋が連なり、岩場を登るルート。
最も登山者が多い
吉田ルートは、富士山を北東斜面から登る登山道で、首都圏や富士五湖などの周辺観光地からのアクセスの良さなどから最も登山者が多い登山道です。
本来、北口本宮冨士浅間神社(きたぐちほんぐうふじせんげんじんじゃ)を起点として、主に富士講と呼ばれる富士山自体をご神体と考える人々が登る信仰登山の道でした。富士スバルラインが開通した現在では5合目から登るのが一般的ですが、一合目下の馬返(うまがえし)や浅間神社など麓から登る人が今でも多く居ます。
最近まで「河口湖口」と呼ばれていた5合目からの登山道は、今では「富士スバルライン五合目」と「吉田ルート」に呼称が統一されています。看板や標識などからは河口湖口の名称は一切無くなっているので、かつて河口湖口から登山した経験がある人は思い違いをしないように注意が必要です。
8合目からは須走ルートと合流するため、特に御来光を目的とした登山者による日の出前の大渋滞が問題とされています。
自然からはかけ離れた人工的な登山道
その一方で、あまりの人の多さと、斜面崩壊対策の土留め、落石防止工事の跡、山小屋が切れ間無く立ち並ぶさまから、本来の登山の楽しさとは対極の、人工的な雰囲気に支配されています。
吉田ルートの難所
山小屋も多く、救護所も三箇所あるため、設備的には最も初心者が不安なく登れる登山道と言えるでしょう。しかし、7合目下から始まる岩場は急で険しいために、必ずしも初心者が安全に登れる道ではありません。
また、8合目から上のザレ場(砂や小石の斜面)は滑りやすく、それなりの歩行技術を求められます。また、9合目から上にも急な岩場があり、疲労のピークを迎えるところであることから、このルートで最も危険な難所であると言えます。
身長の低い小学校低学年以下の子供では厳しい段差もあるので、ある程度の登山経験のある大人が下からリードしてあげて欲しいものです。
登山道と下山道が別々
吉田ルートは、6合目から山頂まで、登山道と下山道が別々に通っています。下山時に岩場を下らなくていいのは安全でいいのですが、高山病などの体調不良で途中から引き返す際は、急傾斜な岩場がとてもデンジャラスになります。
また、下山道も延々と続くザレた滑りやすい道で転倒する人が続出します。岩が飛び出ているようなことはないので怪我の危険性は低いですが、4ルートの下山では最もタフだと言う人もいます。
登山ルート | |||
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標高 | 山頂3,706m 5合目2,305m | 標準コースタイム | 登り5時間55分 下り3時間10分 |
標高差 | +1,436m | コースタイム実例 | 登り*5時間57分 下り*2時間51分 |
距離 | 登り6.3km 下り? | ||
交通 | |||
バス | 登山バス1路線 高速バス4路線 | アクセス道路 | 富士スバルライン |
最寄り駅 |
| 通行料 | 有料 |
最寄バス停 | 『富士山五合目』バス停 | 駐車料/収容台数 | 無料/330台(+沿道500台) |
※累積標高差とは、下り分を含めない登りの高度差のみを足した数値。*管理人による食事・トイレ以外の小・中休憩時間を含む実測(ストック不使用)。 | |||
※標準コースタイムは昭文社発行の『山と高原地図 富士山 御坂・愛鷹』2012年版から引用。基準として①40~50歳の登山経験者②2~5名のパーティ③山小屋利用を前提とした装備(テントを持たず比較的軽量という意味)④夏山の晴天時としています。※食事やトイレなどの休憩(大休止)を含まない正味の時間であり、休憩等を含む実際の登山ではさらに時間が掛かりますので、計画を立てる際には注意が必要です。 ※このサイトにおける「山頂」とは各登山道の終点、つまりお鉢巡りコースとの合流地点とし、最高地点「剣ヶ峰」とは分けて表記しています。各登山道終点の標高は、こちら(静岡県/県道富士公園太郎坊線標高日本一)を参考にしています。 |
山頂での御来光に拘るかどうかが分かれ目
夜明け後の山頂から [2011/8/28(日) 5:16]
吉田ルートでの登山を考える上で、一番悩むのは日の出をどこで迎えるかでしょう。山頂での御来光に拘る限り、山頂の山小屋に宿泊するので無ければ、登山道の渋滞問題は避けて通れません。
山小屋からの出立が遅れると、最悪、山頂到着が日の出時刻に間に合わなくなることもあります。それを避けるには、他の人たちよりも早く山小屋を出なければいけませんが、そうすると寝不足で登らなければいけなくなったり、山頂に着いてから何時間も暗い中を待ち続けることになります。御来光にそれだけの価値を見出せるかどうかが判断の分かれ目です。
ゆったり日の出を待って登るのもあり
そこまでして御来光に拘らないのであれば、山小屋の前でゆっくり日の出を迎えるのもいいでしょう。厳密に言うと、山頂以外の場所で見る日の出は御来光とは呼べないのですが、日の出自体の美しさは、山頂で見る御来光と天地の差があるわけでもありません。
場合によっては、山頂が笠雲に覆われていて日の出が見られず、その下の8合目辺りの方が晴れているなんてこともあります(もちろん、下の方が曇ってしまう可能性もありますが)。
一般的に初心者向けと紹介されることが多い吉田ルートですが、意外と険しい岩場や滑りやすい場所が多く、山小屋にたどり着くまで気が抜けないルートです。
下山は比較的安全ですが、滑りやすいザレた(砂利)道が延々と続く九十九折は転倒者が続出するので、正しい歩き方を見につけておく必要があります。
観光地です
富士スバルラインの5合目は、富士山の登山口であると共に、一大観光地でもあります。
山小屋というか、食事や宿泊も出来るお土産物屋はいくつもありますが、コンビニは無いので食料品の調達には便利ではありません。自動販売機は有るので飲み物は購入出来ますが、「観光地価格」なので平地で買うよりも高くつきます。素直に、5合目に来る前に買っておくべきでしょう。
登山口は、道路と反対方向へ行けば、なんとなく人の流れで分かると思います。
最初は下り
5合目からしばらくは平坦な道が続きます。一部、路肩が崩れているところもありますので、あまり端に寄り過ぎないようにしましょう。ときおり、馬の糞が落ちていることがあります。草食動物の馬の糞は、あまり臭わないので気がつきにくいです。特に夜間は、足元に注意を払いましょう。
少し石畳が出てきますが、雨などで濡れていると意外と滑りやすいので油断しないように。
泉ヶ滝分岐
泉ヶ滝で道が分岐します。山頂は右の道ですが、分岐に気がつかずに左へ行ってしまう人も少なくないようです(特に夜間)。
左へ行くと多少遠回りになりますが、経ヶ岳を経由するので、あえてこちらの道を選ぶのも悪くありません。
泉ヶ滝から先で、急に傾斜がキツくなります。ここで他の登山者の早いペースに惑わされないようにしましょう。ゆっくりゆっくり登って行けば、いずれ追い抜き返すことが出来ますから、急ぐ必要はありません。
地面は、粗い砂の混じった土ですが、6合目近くなると、また石畳の道が出てきます。
6合目に着くと、安全指導センターの係員が迎えてくれます。横移動が多かったせいか、「もう6合目か、意外とチョロイな」と感じる方も少なくないかもしれませんが、本番はこれからです。
この先から傾斜がきつく、足元もすべりやすくなります。ここで飛ばすと後が苦しくなるので、意識的にペースを落としましょう。歩幅を小さくして、後ろ足を蹴らないような歩き方をすると、滑りにくくなります。
人工的な手が入った道
6合目から7合目の間に山小屋はありません。ずっと擁壁(ようへき)と落石防止の石堤(せきてい)が主な風景です。
この辺りの傾斜は緩やかですが、階段がいくつも出て来ます。これは、土が雨などで流出しないように土留めとして板が階段状に組まれているのです。体力に余裕のある方は、出来るだけ板のある場所を通過してください。板の端の、土が流れ出したところを登ると楽ですが、その分、土の流出を進めることになってしまいます。
いずれにしても、なるべく段差の小さい場所を選んで越えていくセオリーは変わりありません。ただ漫然と歩いていても危険は少ないですが、エネルギーロスの多い歩き方は、後半になってボディブローのように効いて来ます。
岩場は続くよどこまでも
吉田ルートの技術的な難所は、7合目花小屋から8合目蓬莱館下まで断続的に続く、急傾斜の岩場です。
ストックを使っている人は、ここではストックは短くしてザックに仕舞いましょう。ストックを使い慣れない人が急な岩場でストックを使うと、つっかい棒のように身体を後ろにのけ反らせて却ってバランスを崩してしまったり、ストックの先が岩の隙間に引っかかったりして転倒、転落の原因となり、とても危険です。両手をあけて、その手で岩につかまって登るのが安全です。
7月上旬の富士山
7月の山開きすぐは、まだ梅雨が明けておらず天気がすぐれないことが多いのですが、だからといって何も楽しみが無いかというとさにあらず。8合目から上辺りに残雪が残っていれば、結構雄大な景色が見られたりします。
歩きやすいところを見極めて
8合目も蓬莱館を過ぎると岩場も終わり、またストックが使えるぐらいの傾斜になります。しかし、それで楽になるかというと、そうとも言えません。今度は、大小様々な溶岩が地面を埋め尽くし、とても歩きにくいです。
でも、写真を良く見てください。道の右側は、ゴロゴロした溶岩が少ないですよね。このような、自分にとって歩きやすい所はどこか、常に見定めながら歩くことも、登山のベテランになるために不可欠な要素です。
登山のベテランというと「体力のある人」というイメージがありますが、それだけではなく、「無駄に体力を消耗しない知識と経験がある人」こそが、本当のベテランなのだと、私は思います。
ここからが本番
本八合目を過ぎると、滑りやすい急傾斜の道が続きます。ここでも基本の歩き方、歩幅の小さいステップを思い出してください。大股に歩いて良いことは何一つありません。
やがて最後の山小屋、御来光館の前を通りますが、「最後ということは、山頂ももう近く?」と思うのはまだ早いです。実は、ここからさらに傾斜がキツくなり、険しさも一層増してくるのです。
9合目には鳥居がありますが、下から見るとそれが山頂に建つ鳥居であるかのように錯覚します。そして、鳥居に辿り着いて、そこがまだ9合目であることを知る。このようにして、精神的にも痛めつけられる富士山、恐るべしです(笑)
最後まで集中力を切らさないよう
その疲労の極みで迎える難所が、9合目から上の岩場です。写真のような大きな岩がゴロゴロしています。グラグラして動くような石(浮石)には足を乗せないように、一歩一歩足の置き場所を考え、慎重に踏み出してください。
山頂に近づくほど風も強くなってきます。帽子などが飛ばされないように注意すると共に、突風が来ても体勢を崩されないように、常に安定した姿勢を保つことが大切です。特に、人を追い抜こうとするときにバランスを崩しやすいですから、焦らずに気持ちに余裕を持って登りましょう。
そして山頂へ・・・
まだかまだかと思えば思うほど、遠く感じるもの。足が棒のようになって諦めかけたそのとき、それは突然やって来ます。
岩の間の細い道を抜けると・・・鳥居と狛犬がすぐ近くに見えるでしょう。それが山頂の目印です。山頂は混雑していますから、ここで一枚記念写真を撮っておくといいですよ。
富士山山頂からの下山で最も時間が掛かるのは、意外にも吉田ルートです。他のルートが直線的に降るのに対して、吉田ルートはジグザグに降る九十九折れ(つづらおれ)となっているからです。
登山道と下山道は別になっています
富士山山頂に無事登頂し、「さぁ、帰ろう」となったとき、ひとつ注意して欲しいことがあります。普通は、来た道をそのまま戻るものだと思うでしょうが、吉田ルートは、登山と下山に同じ道を使いません。これを知らずに、登り用の道を下ってくる人を多く見かけます。
なぜ登り下りが別れているかというと、登山道は登りやすく、下山道は下りやすいように作ってあるからです。逆に言えば、下山道は登りにくく、登山道は下りにくいということです。登山道を下るのは、登山者の流れに逆行するだけでなく、急傾斜の岩場を下るので、とても危険です。体調悪化でしょうがなく引き返すなどの理由が無ければ、素直に下山道を使いましょう。
下りは、長袖、軍手で
下りでは、滑りやすい下山道で転ぶ人を多く見かけます。後ろに倒れる分には、ザックが後頭部への直接の打撃を防ぐのでさほど危険ではないですが、手足を擦りむかないように寒くなくても手袋をはめて、長袖シャツ、長ズボンを着用するとより安心です。
下りでも手に汗をかくので、防水や防寒の手袋ではなく、軍手を使うことをオススメします。
6合目までが遠い
8合目を過ぎても滑りやすい道が続きます。疲労と単調さから集中力が切れて来ますが、こういうときこそ危険です。足元に意識を集中して、どこに足を踏み出したら安全か、考えながら歩きましょう。
落石シェルター
下山道7合目のトイレを過ぎると、残りの数回角を曲がって、長かった九十九折れも終わりとなります。ここから先は落石の恐れが高いため、シェルターが設けられています。登山者は、このシェルターの中を歩くことで落石から守られ、安全に通行出来るようになっています。
しかし、写真のようにシェルターの外を歩く人が大勢居ます。命が惜しくない人たちなのでしょう。ここをご覧になった皆さんは、登山で最も戒めるべきは『油断』であると肝に銘じてください。
(※注意:富士山吉田口下山道では、実際に落石事故により多くの人が亡くなった過去があります。その事故の起きた下山道は今では使われていませんが、だからといって、その場所以外の安全が保証されているわけではありません。)
石畳が濡れているときは、要注意
6合目に着くと、ようやく終わりが見えてきて、ホッと一息つきたいところでしょう。しかし、本当の危険は、むしろ6合目からの石畳の道に潜んでいます。
特に雨や霧で石畳が濡れていると、多くの登山者に踏まれて角が丸く磨り減った石は、非常に滑りやすくなっているのです。重心をやや前に掛けて、歩幅は小さく、ベタ足で慎重に下りましょう。
経ヶ岳の迂回路
もしも滑りそうで不安であれば、経ヶ岳方面に迂回する手もあります。こちらの道は主に土や砂利ですから雨のときは石畳以上に滑りやすくなりますが、同じように転んでも怪我をする危険性は低いので、こちらの方が安心です。
晴れているときでも、経ヶ岳の八角堂、日蓮上人像など見るべきものもあるので、あえて寄り道するのもいいでしょう。