富士山 須走ルート
樹林帯を歩くルート。
樹林帯を歩くルート。
樹林帯で草花を愛でる
須走ルートは、富士山を東斜面から登る登山道で、富士山中腹の5合目まで自動車道が通っています。しかし、近年は登山者があまりに多いため、5合目につながるふじあざみラインにマイカー規制が行われ、7~8月の多くの週末は麓からシャトルバスを利用しないといけなくなっています。
富士宮口五合目(2,380m)、富士スバルライン(吉田口)五合目(2,305m)よりも登り始めの標高が低い(1,960m)ことから、「初心者に向いている」と紹介されることのあまりないルートですが、実際にはむしろ登山の初心者には最適と言えるルートです。
富士山を登る四つの登山道では唯一、森林限界が5合目より上にあり、森林の中を長く歩くことが出来ます。これは特に、樹木が直射日光を遮ってくれるおかげで体力の消耗を防ぐというメリットがあります。砂と岩だらけという他の登山道と比べて土の地面は足にも優しいですし、森の中を歩くということ自体が気分的にも楽しいものです。
8合目からは吉田ルートと合流するため、特にご来光を目的とした登山者による日の出前の大渋滞が問題とされています。8合目までは山小屋も少なく、登山者も比較的少ないために、ゆっくり自分のペースで登ることが出来ます。しかし、8合目から上のザレ場(砂や小石の斜面)は滑りやすく、それなりの歩行技術を求められます。また、9合目から上に急な岩場があり、疲労のピークを迎えるところであることから、このルートで最も危険な難所であると言えます。
登山ルート | |||
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標高 | 山頂3,706m 5合目1,970m | 標準コースタイム | 登り6時間55分 下り3時間 |
標高差 | 1,746m | コースタイム実例 | 登り*5時間52分 下り*3時間35分 |
距離 | 登り7.7km 下り? | ||
交通 | |||
バス | 登山バス2路線 | アクセス道路 | ふじあざみライン |
最寄り駅 |
| 通行料 | 無料 |
最寄バス停 | 『須走口五合目』バス停 | 駐車料/収容台数 | 無料/200台 |
*管理人による食事・トイレ以外の小・中休憩時間を含む実測(ストック不使用)。 | |||
※標準コースタイムは昭文社発行の『山と高原地図 富士山 御坂・愛鷹』2012年版から引用。基準として①40~50歳の登山経験者②2~5名のパーティ③山小屋利用を前提とした装備(テントを持たず比較的軽量という意味)④夏山の晴天時としています。※食事やトイレなどの休憩(大休止)を含まない正味の時間であり、休憩等を含む実際の登山ではさらに時間が掛かりますので、計画を立てる際には注意が必要です。 ※このサイトにおける「山頂」とは各登山道の終点、つまりお鉢巡りコースとの合流地点とし、最高地点「剣ヶ峰」とは分けて表記しています。各登山道終点の標高は、こちら(静岡県/県道富士公園太郎坊線標高日本一)を参考にしています。 |
須走ルートの魅力は、なんと言っても樹林帯歩きでしょう。また、樹林帯を抜けて景色が一気に広がる開放感も須走ルートならではのものです。しかし、折角の樹林帯も夜間登山では体験出来ない(帰りは疲れて楽しむどころではない)ので、日中日帰りか、山小屋宿泊の計画を立てることをオススメします。
宿泊する山小屋は、8合目以上は吉田ルートと合流して混雑するので、7合目以下に宿泊することをオススメします。山頂での御来光に拘らなければ、渋滞につかまることもほとんど無いでしょう。
日中日帰りで御来光(本来の意味の御来光ではなくなりますが)も見ておきたいのであれば、夜明け前に5合目を出て小富士に立ち寄って日の出を待ち、夜が明けてから樹林帯を登り始めるといいでしょう。(※御来光とは、高山の『山頂』で迎える日の出の意味です)
須走ルートは、全般的に良い意味でローカルな雰囲気があります。樹木の間を抜ける比較的登山者の少ない静かな登山道ですが、8合目で吉田ルートに合流すると人がどっと増えて一変します。
下山道は、登山道とは別の道を下ります。7合目から砂払五合目まで『砂走り』という砂が厚く堆積した道を行きます。樹林帯でも一部、登山道と下山道が分かれています。
富士山須走ルートの一般的な登山口となる、須走口五合目です。案内所では、登山や観光のアドバイスも受けられます。山小屋の空室状況を示した表示板があるので、予約せずに来た人は確認しておくといいでしょう。
5合目には、山荘菊屋と東富士山荘という二つの山小屋が並んで建っています。どちらも土産物の購入だけでなく食堂としても利用出来るので、登山前後の腹ごしらえに便利です。おにぎりや弁当なども販売しているので、こちらで購入して行くのもいいでしょう。
小富士への分岐手前にある東屋(あずまや)に、登山ポストが設置されています。これは登山計画書を投函するためのもので、一般に夏の富士登山では登山計画書を出すこともないですが、冬期登山者に対しては登山計画書を提出するように関係機関も要望しています。
古御嶽神社参道
まず登山口は石畳の道から始まります。そして長い階段を登ると小さな神社が正面に現れます。富士山の四つある5合目登山口の中でも、最も静謐な雰囲気を漂わせる古御嶽神社(こみたけじんじゃ)への参道です。
その先から本格的に始まる登山道は、森林限界を越える6合目まで主に三つのパターンが交互に繰り返します。「平坦で歩きやすい土や砂の道」「溶岩が冷えて固まった凸凹の道」「土の地面に岩が点在する道」です。
平坦な道こそ気をつけて
最も危険なのは溶岩の道のように思えるでしょうが、傾斜はそれほど急でもないので靴の先を引っ掛けないように気をつければさほど危険ではありません。溶岩がガッチリ固まっているので浮石も少なく、歩く方も歩きにくいことを承知して集中しているのでうっかり転ぶようなことも少ないのです。
むしろ危険なのは平坦な道に時々現れる溶岩の出っ張りです。特に夜間には視野が狭まるために、平坦な道だと思って油断していると、不意を突かれて足を引っ掛けてしまうのです。安全そうなところほど足元を良く見て歩くと共に、先の路面状況を常に確認しながら進むことが肝心です。
森を抜ける開放感
やがて下山道との分かれ道を過ぎると、砂地の割合が多くなって来ます。路肩が崩落していることもあるので、注意してください。森を抜けるとデーンと富士山が正面に見えます。晴れていれば。
人間の感覚とは面白いもので、最初からひらけた場所を歩いていると意識しないのですが、森林のように視界を遮られたところから一気に外に出ると、鳥かごを出た鳥のように気持ちが高揚するようです。
登山道は、森に入ったり出たりを繰り返しながら、急激に高度を上げていきます。6合目の長田山荘の先で森林限界を越えると低木地帯が続きます。
瀬戸館を過ぎてしばらく歩くと、急傾斜の岩場があります。高さは見えている範囲に収まるので、特に危険ではないでしょう。ストックもわざわざ仕舞う必要はなく、片手をあければ問題なく通過できます。
その先には廃業した山小屋跡に、木材が散乱しています。さらに進むと月待塔と呼ばれる石碑があります。この辺りではすでに足元は土から砂に変わっており、徐々に荒れた様相を呈してきます。一方で、この標高でも道端に草花が健気に頑張っているのを見ることが出来ます。植物の生命力はすごいですよね。
いよいよ3,000mを超えて来ます。体力的に厳しいうえに、高山病を訴える人も出てくる高度です。周囲の人に聞こえるぐらい深い呼吸を意識してゆっくりと繰り返しましょう。
8合目の下江戸屋の下辺りから、さらに滑りやすい道となります。ここからが本当の山場です。一歩ごとに足を滑らせていては、どんな体力自慢でもすぐにスタミナ切れとなるでしょう。力より頭を使うことが大切です。
ここからが本番
本八合目を過ぎると、滑りやすい急傾斜の道が続きます。ここでも基本の歩き方、歩幅の小さいステップを思い出してください。大股に歩いて良いことは何一つありません。
やがて最後の山小屋、御来光館の前を通りますが、「最後ということは、山頂ももう近く?」と思うのはまだ早いです。実は、ここからさらに傾斜がキツくなり、険しさも一層増してくるのです。
9合目には鳥居がありますが、下から見るとそれが山頂に建つ鳥居であるかのように錯覚します。そして、鳥居に辿り着いて、そこがまだ9合目であることを知る。このようにして、精神的にも痛めつけられる富士山、恐るべしです(笑)
最後まで集中力を切らさないよう
その疲労の極みで迎える難所が、9合目から上の岩場です。写真のような大きな岩がゴロゴロしています。グラグラして動くような石(浮石)には足を乗せないように、一歩一歩足の置き場所を考え、慎重に踏み出してください。
山頂に近づくほど風も強くなってきます。帽子などが飛ばされないように注意すると共に、突風が来ても体勢を崩されないように、常に安定した姿勢を保つことが大切です。特に、人を追い抜こうとするときにバランスを崩しやすいですから、焦らずに気持ちに余裕を持って登りましょう。
そして山頂へ・・・
まだかまだかと思えば思うほど、遠く感じるもの。足が棒のようになって諦めかけたそのとき、それは突然やって来ます。
岩の間の細い道を抜けると・・・鳥居と狛犬がすぐ近くに見えるでしょう。それが山頂の目印です。山頂は混雑していますから、ここで一枚記念写真を撮っておくといいですよ。
須走ルートの下りは、ほとんどが砂の地面です。山頂から8合目までと、7合目から5合目の樹林帯途中まで、それぞれに下山道があり、登りに使った登山道とは別の道を歩きます。7合目から砂払五合目までは砂走りと呼ばれる、深い砂の道で、比較的安全に降りられます。一方、山頂から8合目までは砂が浅く、地面が固いので転ぶと手足を擦りむくことになります。
登山道と下山道は別になっています
富士山山頂に無事登頂し、「さぁ、帰ろう」となったとき、ひとつ注意して欲しいことがあります。普通は、来た道をそのまま戻るものだと思うでしょうが、吉田ルートは、登山と下山に同じ道を使いません。これを知らずに、登り用の道を下ってくる人を多く見かけます。
なぜ登り下りが別れているかというと、登山道は登りやすく、下山道は下りやすいように作ってあるからです。逆に言えば、下山道は登りにくく、登山道は下りにくいということです。登山道を下るのは、登山者の流れに逆行するだけでなく、急傾斜の岩場を下るので、とても危険です。体調悪化でしょうがなく引き返すなどの理由が無ければ、素直に下山道を使いましょう。
下りは、長袖、軍手で
下りでは、滑りやすい下山道で転ぶ人を多く見かけます。後ろに倒れる分には、ザックが後頭部への直接の打撃を防ぐのでさほど危険ではないですが、手足を擦りむかないように寒くなくても手袋をはめて、長袖シャツ、長ズボンを着用するとより安心です。
下りでも手に汗をかくので、防水や防寒の手袋ではなく、軍手を使うことをオススメします。
8合目から7合目までは、ブル道を下ることも出来ますが、登山道を大陽館まで下っても構いません。膝への負担が少ないのはブル道ですが、足元のシッカリした登山道の方が歩きやすいという方も居るようです。登山者とすれ違うことも多いですが、「登り優先」ですから快く譲りましょう。
砂走り
7合目の大陽館から登山道と道が別れ、砂払五合目まで砂走りと呼ばれる道になります。これまで以上に砂が深く、傾斜も急になります。砂がクッションとなり、膝への衝撃は和らぐのでスピードは出せますが、砂の中に時々大きな石が埋まっていますので無闇に飛ばし過ぎないようにしましょう。晴れていれば、山中湖を下に見て雄大な景色を堪能できます。
砂の中に隠れた岩や岩盤に注意
また、途中で一箇所だけ岩盤が露出しているところがあります。岩の上に砂が載っていると非常に滑りやすいです。砂の上だから尻餅をついても大丈夫と考えるのは大間違い。岩盤で腰を打てば、ヘタをすると自力で下りれないほどの怪我を負います。
この岩盤を越えればあとは危険は少ないですから、せめてこの岩盤を越えるまでは足元に充分に注意を払ってください。岩盤の位置は、大陽館から砂走りに入って10~20分ほどの位置です。(※注意:2013年時点の話です。山中の道は、状況の変化によって通過位置が変更されることが珍しくありません。)
スタートの森へ戻って来た
砂払い五合目を過ぎると樹林帯に戻ります。途中でブルドーザー道へ合流しますが、森の中でまたすぐに別れます。分岐地点にはロープが張ってありますが、このロープが外されていることがあるので間違えて直進しないように気をつけましょう。但し、間違って進んでも須走口五合目駐車場の裏の辺りに出るので、間違えたことに気がついていれば問題はないのですが、もし気がついていないと5合目を通り過ぎて御殿場口までブル道を下ってしまうかも知れません。
登山道と合流した先は登山道を下ります。以前は下山道が別にあったのですが、地面が掘れて段差が大きくなったためか、2013年時点で下山道は使えなくなっていました。
頑張った自分にご褒美を
無事5合目へ戻れましたか?
5合目に着いたら、名物のこけももソフトでも食べて、バスの時間までゆっくり疲れを癒しましょう。こけももソフトは、菊屋さんはシャーベット、東富士山荘さんはソフトクリームと味に違いがあるので、食べ比べてみるのも面白いですね。