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LastUpdate 2016/04/28

富士登山における高山病の予防と対策

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富士山は標高が高いことから、高山病になる登山者も多く見受けられます。ときに命の危険もある高山病ですが、きちんと知識を身につけてから登れば安心です。

高山病とは

正しくは『急性高山病(AMS)』と呼ばれ、その名の通り急激に高度を上げることで起こる各種の症状を指します。

一般に、高度が10m上昇するごとに1hPa(ヘクトパスカル)づつ気圧が低下するとされ、標高3,776mの富士山山頂では平地の3分の2ほどの気圧しかありません。実は、このような高所でも酸素濃度は平地と変らず約21%なのですが、気圧の低下によって酸素を含む大気自体の密度が低下することにより単位容積あたりの酸素量が減り、呼吸によって得られるはずの酸素が欠乏することによって高山病が発症します。

高山病は標高2,500mから発症すると言われていますが、高山病に対する耐性は個人差が大きいとされ、年齢や性別、体力の有る無しもほぼ無関係であるとされます。気をつけて登れば山頂でもなんの不調も感じない人もいれば、登山口の5合目ですでに体調不良を訴える人もいます。ただ、高所での体調不良イコール高山病ということではないので、高山病以前の問題として体調管理と冷静な自己診断もまた大切だと言えます。

最悪の場合は命にも係わる

初期症状としては、まずは頭痛、めまい、息切れ(呼吸困難)、むくみ(浮腫)、睡眠障害、食欲不振、空咳、倦怠感または虚脱感、吐き気などです。この状態でも症状が軽ければ登山を続けられないこともないですが、体調の変化には注意が必要です。

症状がさらに悪化すると、激しい頭痛、嘔吐を繰り返す、意識障害(トンチンカンなことを言う、問いかけに反応しないなど)となり、これはとても危険な状態です。このような症状が出ている人を無理に動かしたり、引っ張ったりして強引に登らせてはいけません。

高山病の根本的な治療は高度を下げる以外にないので、それ以上の登山は諦め、付き添いの人を付けてすぐに下山してください。高山病は、高所脳浮腫、高所肺水腫などを引き起こし、最悪の場合、死に至るということを忘れないでください。

一般的に知られている高山病を予防するポイントとして挙げられているのは、次の三つの要素です。

Check Point!

高山病予防策

  • 体調管理とペース
  • 水分補給
  • 深呼吸

以下、項目ごとに詳しく見ていきましょう。

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体調管理とペース

意外と疎かにされがちなのが、体調の管理です。登山はスピードが要求されないわりにはハードな運動を長時間続けなければいけません。寝不足などで体調が悪ければ、高山病にも掛かりやすくなります。また、登るペースが早すぎると気圧の変化に身体がついていけません。

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睡眠

寝不足は禁物


昼寝も大事
(image from 写真素材 足成)

富士山に限らず、睡眠は体調管理の基本中の基本です。富士山が特異とされる点は、御来光を目的とした徹夜登山が行われるところにあります。徹夜で登山をするのは富士山でなくても辛いものです。近年は、そのような徹夜での登山を「弾丸登山(だんがんとざん)」と呼んで、戒めているようです。

もしもあなたが御来光日帰り登山が出来るか否かで迷っているならば、前夜に早寝が出来るかどうかで判断すると良いかもしれません。また、車や移動中のバス、電車で仮眠を取れるかどうかも考慮しましょう。

山小屋での宿泊を予定している場合は、山小屋の特殊な環境で十分な睡眠をとれるかどうかも考える必要があります。もし慣れない環境では眠れないようなら、駅前のホテルや旅館などに前泊して日帰り登山の計画とした方が楽に登れるかも知れません。

いずれにしても睡眠は大切ですが、あまりに意識しすぎて却って眠れないようではいけません。どうしても眠りにつけないようなら、出来るだけ頭をカラッポにして、「身体を横にしているだけで休憩になっているんだ」という頭の切り替えも必要です。

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登高ペース

5合目までの移動もゆっくりと

高山病は、一般に標高2,500m以上で約25%の人に影響が出始めるとされますが、これは低地から短時間で移動した場合です。富士登山においては5合目まで車やバスで移動することが、まさに短時間の移動ということになります。

富士山の場合、富士山駅で標高809m、御殿場駅で455m、富士宮駅で122mと、一般的な登山口である5合目までの高度差が大きいため、どの駅から登ってもこれは起こりえると言えるでしょう。車で登る場合は、走っている間も窓を少し開けて気圧の変化を直接受けるようにしておけば、窓を閉め切るよりも気休め以上の効果はあるかもしれません。

マイカー規制時のシャトルバス乗換駐車場として用意されている、富士北麓駐車場(吉田ルート)は標高約870m、須走多目的広場(須走ルート)は約860m、水ヶ塚公園(富士宮ルート)は約1,500mとなっています。比較的標高の高い水ヶ塚駐車場は、併設のスカイポート水ヶ塚の売店や食堂を利用すると、その間の時間が高度に慣れる助けになるでしょうから、マイカー規制されていない時期でも時間に余裕があれば立ち寄ってみると良いでしょう。

遠方からの人は、麓で前泊を

また、遠方から来られる方は、標高の低い麓の旅館やホテルなどで前泊をして体を休めましょう。

富士宮口や御殿場口を登山口として来られる方は、標高1,200mにある表富士グリーンキャンプ場のコテージで前泊するのも良いと思います。特に家族連れの方などはアウトドア気分が満喫出来ると思います。また、5合目駐車場でのテント泊を考えている方も、たたでさえ混雑している駐車場にテントを張るのは他の人に迷惑となりますので、このようなキャンプ場のテントサイトを利用しましょう。

登山前に高度順応

高度に順応するうえでよく知られた方法は、登山口である5合目に着いたらすぐに登山を始めずに、30分~1時間ほどブラブラ散策するのが良いというものです。これも閉め切った車内にいるのではなく、売店を見て回るなど外気に触れないと効果は薄いと思われます。

また、自家用車で来られるのであれば、5合目に直行するのではなく、途中の適当な高度で駐車場に停めて5~10分でも休憩を取るのも良いと思います。ただ、須走口のふじあざみラインでは車を停めるスペースがないので難しいとは思いますが。

山登りもゆっくりと

ゆっくりと登ることは体力を温存する登り方としても有効ですが、高山病対策としても低い気圧に徐々に身体を慣らすために重要です。特に最初の30分はウォーミングアップのつもりで、ゆっくりゆっくり登りましょう。

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宿泊高度

宿泊は、低い標高で


窓の下の張り紙に注目
(at 本八合目トモエ館)

以上のことに関連して言われるのが、宿泊は低い標高が良いというものです。高山病は主に酸素不足によるのですが、睡眠時は無意識に呼吸を抑制しているために寝ている間に高山病にかかってしまうケースが多いと言われています。かといって、睡眠をとらないと別の意味で体調に支障をきたすので、次善の策として出来るだけ低い標高の山小屋に泊まった方が良いとされているのです。

特に吉田・須走ルートの8合目は、常に満員で混雑しているので、気も休まりませんし、多くの人が締め切った建物の中で呼吸するので、酸素も薄くなりがちです。

実際に、睡眠中も窓を開けて外気を取り入れるようにしている山小屋もあります。

山小屋に着いても少し体を動かそう

また、山小屋に着いてからも、疲れているからといってすぐに横になったりするのは良くありません。出来れば山小屋から少し上の高度(100mほど)まで登って少しの間そこに留まり、また降りてきて泊まるようにすると高度順応の助けになります。

これは、エベレストなどの高所登山でも実践されている高度順応の方法ですが、山小屋到着の時点ですでに疲労困憊しているようでしたら、体力の温存を優先する判断も必要です。(但し、吉田ルートのように登山道と下山道が明確に分かれているルートでは登山者の流れに逆らって下山することになり、他の登山者の迷惑になるので8合目以上の場合に限ります)

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水分補給

水分補給が高山病対策?

水分を多く摂ることも高山病の予防になるとして定説になっています。高所は乾燥しているため脱水症状になりやすいこと、発汗によって体内の水分が失われることで血液の粘度が増し、酸素を運ぶ血流に支障を来たす恐れがあることなどが理由です。ですから、高山病対策であるとないとに関わらず、適切な水分補給は登山に欠かせないポイントとされています。

多く飲めば飲むほど効果があるのか?

では、どれぐらい水を飲めばいいのでしょうか。これも、多く飲めば飲むほどいいというわけでは無いようです。

高山病の権威であるピーター・ハケット博士も、「水分を余分に摂ることが高山病を予防するという科学的根拠はない」とおっしゃられています。しかし、必要な量からさらに「余分に」摂取することが有効かどうかが明確で無いというだけで、水分補給の必要性を否定しているわけではないので、誤解の無いようにお願いします。

どれだけ飲めばいいか

また、以下のサイトでは、具体的な水分補給量を、1時間あたり、5ml×体重(kg)として、これを15分ごとぐらいに分けて飲むのが良いと書いてあります。私は体重が約64kgですから、5×64=320mlを1時間分として、15分ごとに80mlづつ飲めばいいということですね。

ただし、こちらのサイトには書かれていませんが、夜間の登山であればこの計算よりも少ない量でいいと思います。根拠はないですが、上記の計算の8~9割ぐらいでしょうか。下山時であれば、5~6割ぐらいでいいと思います。

また、水分が足りているかの自己診断として、尿の濃度(透明度)と量を観察して普段と比較することも大切なことです。

Check Point!

登山前に体内の水タンクを満タンにしておこう

参考までに、私が実践している方法をお教えしましょう。これは富士山に限らず登山に出かける際には必ずやっていることです。

まず、家を出る前にトイレに行きます。そして、水をコップ2杯ほど(3~400ml)飲みます。こうすると、登山口に着くころに体内の水タンクから溢れ出た余分な水分が尿として排出され、尚且つ血液中には十分な水分が残っているはずです。つまり、体内の水タンクが満タンの状態で登り始められるのです。

その後は、汗をかくに従って定期的に水分を補給すれば十分な水分を体内に保持できるはずです。これで登り始めに必要以上に水分を摂る必要もありませんし、登り始めてからすぐにトイレに行きたくなるということもありません。もちろん、遠方から来られる方は、水を飲むタイミングを調節する必要があるでしょう。

これは、2002年に日韓W杯を戦った日本代表でも実践されていた方法です(『山本昌邦備忘録』山本昌邦著:講談社文庫)。

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飲料水の必要量

上記の計算式を元に、富士登山で必要な飲料水の量を、体重別に表にしてみました。

※注意:あくまでも目安です。数字に縛られずに、天候や気温、発汗量、体調で飲む量を調節してください。決して、「これだけ飲めば高山病にならない」「これ以上飲んではいけない」、「これ以上飲む必要が無い」などということではありませんので、晴れて暑いことが予想される場合など、状況に合わせて多めに水分を補給しましょう。
一番大事なのは、事前の練習登山で自分なりの必要量を把握しておくことです。

当然のことですが、下山時やお鉢巡りの分も忘れずに加算しておきましょう。特に、吉田ルート、須走ルート、御殿場ルートは、下山道で水分補給出来る山小屋が少ないので、どこが最後の補給ポイントになるのか、予め調べておくことも大切です。

あまり汗をかかない夜間や下山時は減らしても構わないと思いますが、それでも定期的に水分補給する必要があることを忘れないでください。

Check Point!

計算例

[5ml×体重(kg)×時間=要求水分量]

体重70kgで登り 6時間+休憩 1時間/下り 3時間30分+休憩30分
2.45L+0.9L=約3.4リットル
体重50kgで登り 7時間+お鉢巡り 1時間+休憩 1時間/下り 3時間30分+休憩30分
2.25L+0.6L=約2.9リットル
体重90kgで登り(夜間90%として) 9時間+休憩 2時間/下り 4時間+休憩 1時間
(4.95L×0.9)+1.4L=約5.8リットル
登山時
時間/体重80kg*70kg60kg*50kg40kg10kgあたり
15分飲量100ml88ml75ml63ml50ml+12.5ml
1時間あたり400ml350ml300ml250ml200ml+50ml
6時間2.4L2.1L1.8L1.5L1.2L+0.3L
7時間2.8L2.5L2.1L1.8L1.4L+0.35L
8時間3.2L2.8L2.4L2L1.6L+0.4L
9時間3.6L3.2L2.7L2.3L1.8L+0.45L
10時間4L3.5L3L2.5L2L+0.5L
11時間4.4L3.9L3.3L2.8L2.2L+0.55L
12時間4.8L4.2L3.6L3L2.4L+0.6L

(カーソルを載せると色が変わります。)[*小数点二位以下切り上げ]

下山時(*登山時の60%で計算)
時間/体重80kg70kg60kg50kg40kg10kgあたり
15分飲量60ml53ml45ml38ml30ml+0.75ml
1時間あたり240ml210ml180ml150ml120ml+30ml
3時間×60%0.8L0.7L0.6L0.5L0.4L+0.09L
4時間×60%1L0.9L0.8L0.6L0.5L+0.12L
5時間×60%1.2L1.1L1L0.8L0.6L+0.15L
6時間×60%1.5L1.3L1.1L0.9L0.8L+0.18L

(カーソルを載せると色が変わります。)[*小数点二位以下切り上げ]

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深呼吸

腹式呼吸は意識しなくていい

高山病対策には腹式呼吸が有効であるとは、良く聞く話です。同時に、腹式呼吸のやり方が良く分からないという話も良く見かけます。

私(当サイト管理人)は、何度も富士山に登っていますが、高山病に掛かったことはありません。ですが、意外なことに腹式呼吸を意識したことはありません。私が意識しているのは、単に深呼吸することだけです。

腹式呼吸と聞くと難しく考えてしまって、却って呼吸を乱している人も居るかも知れません。ですが、普通に深呼吸出来ていれば、腹式呼吸が出来ているかどうかなんて、拘る必要は無いと思います。

もちろん腹式呼吸が無意味というのではありませんが、難しく考えずに「大きく息を吐く、ゆっくり深く息を吸う」、これだけで十分だと思います。

登山で肺活量の全てを使うことは無い

腹式呼吸の効用として、胸式呼吸に比べて呼吸量が増えるからと説明されたりしますが、本当にそうでしょうか?

もちろん一面の真実も含まれているでしょうが、単に肺活量を普段の呼吸より増やすだけなら必ずしも腹式呼吸である必要はないと私は思います。

みなさんも学生のころ肺活量の計測をやった記憶があると思いますが、最大肺活量は、成人男性で3~4,000ml、成人女性で2~3,000mlとされ、60歳を超えても男性で2,500ml、女性で1,500mlはあるそうです。これに対して、安静時の呼吸では1回あたり500mlほどしか呼吸されていません。つまり、8分の1から3分の1程度しか、普段は使っていないわけです。

運動時には呼吸量が増えるとはいえ、登山ではそれほど激しい呼吸を必要とはしませんし、実際に肺活量を全て使いきるような呼吸をしている人も見たことはありません。単に必要なだけの呼吸量を増やすためであれば、肺活量の3分の2も使えれば十分なはずです。そして、それには腹式呼吸である必要は、必ずしもないのです。

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呼吸はゆっくりと

肺を奥まで使おう


腹式呼吸よりもむしろ意識してやって欲しいのが、ゆっくり呼吸です。

富士山でも、早足で駆け登っては足を止め、また駆け登って足を止めしている人を見かけますが、そのような人は例外なく、ハァハァと浅く、速い呼吸をしています。一方で、歩き方もゆっくりなら呼吸もゆっくりで、友達と会話しながら登っているような人が、先ほどの足を止めている人を追い抜いていくのも見かけます。これは呼吸の早さが原因ではなく結果ですが、事態を悪化させている要因に呼吸方法の間違いがあることも確かです。では、なぜ速い呼吸がダメなのか?

呼吸のときに意識することはあまり無いでしょうが、空気も流れるのに相応の時間が掛かります。もちろん、肺に取り込む酸素も同様です。

ゆっくり呼吸すれば、肺の奥まで届く時間が得られますが、速く浅い呼吸では、肺の奥まで届く間もなく酸素が吐き出されてしまうために、肺全体が有効に使われないのです。

酸素が行き渡るための時間


こう書くと、「なんだ、やっぱり肺活量を全部使えってことか」と思うかもしれません。いいえ、ちょっと違います。呼吸で肺の全部の空気を入れ替えなくても、酸素を肺全体に満遍なく行き渡らせることは可能です。

それはなぜか?

鍵を握っているのは、「拡散」という現象です。拡散とは、気体や液体の濃度が全体で平均化するように広がることです。水に落とした絵の具が溶けて広がったり、煙が空気中に広がるようなどこでも見られる現象を言います。

同じように肺の中でも酸素は平衡に達しようとして拡散しているので、拡散するための時間を与えれば、より少ない呼吸量でも肺の機能をフルに活用出来るのです。

もちろん、全肺活量を使って呼吸を行うのが一番ですが、現実には登山で一歩ごとに全肺活量を使った呼吸を行うのは難しいでしょう。それならば、無理の無い呼吸で、尚且つ肺の機能をフルに活用出来る方法、ゆっくり呼吸を使わない手はありません。

呼吸に関しては、トレーニングの項目でより詳しく書いているので、そちらも参照してください。

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高山病予防薬について

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事前の高度順化に効果はあるか

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