意外と疎かにされがちなのが、体調の管理です。登山はスピードが要求されないわりにはハードな運動を長時間続けなければいけません。寝不足などで体調が悪ければ、高山病にも掛かりやすくなります。また、登るペースが早すぎると気圧の変化に身体がついていけません。
昼寝も大事 (image from 写真素材 足成)
富士山に限らず、睡眠は体調管理の基本中の基本です。富士山が特異とされる点は、御来光を目的とした徹夜登山が行われるところにあります。徹夜で登山をするのは富士山でなくても辛いものです。近年は、そのような徹夜での登山を「弾丸登山(だんがんとざん)」と呼んで、戒めているようです。
もしもあなたが御来光日帰り登山が出来るか否かで迷っているならば、前夜に早寝が出来るかどうかで判断すると良いかもしれません。また、車や移動中のバス、電車で仮眠を取れるかどうかも考慮しましょう。
山小屋での宿泊を予定している場合は、山小屋の特殊な環境で十分な睡眠をとれるかどうかも考える必要があります。もし慣れない環境では眠れないようなら、駅前のホテルや旅館などに前泊して日帰り登山の計画とした方が楽に登れるかも知れません。
いずれにしても睡眠は大切ですが、あまりに意識しすぎて却って眠れないようではいけません。どうしても眠りにつけないようなら、出来るだけ頭をカラッポにして、「身体を横にしているだけで休憩になっているんだ」という頭の切り替えも必要です。
5合目までの移動もゆっくりと
高山病は、一般に標高2,500m以上で約25%の人に影響が出始めるとされますが、これは低地から短時間で移動した場合です。富士登山においては5合目まで車やバスで移動することが、まさに短時間の移動ということになります。
富士山の場合、富士山駅で標高809m、御殿場駅で455m、富士宮駅で122mと、一般的な登山口である5合目までの高度差が大きいため、どの駅から登ってもこれは起こりえると言えるでしょう。車で登る場合は、走っている間も窓を少し開けて気圧の変化を直接受けるようにしておけば、窓を閉め切るよりも気休め以上の効果はあるかもしれません。
マイカー規制時のシャトルバス乗換駐車場として用意されている、富士北麓駐車場(吉田ルート)は標高約870m、須走多目的広場(須走ルート)は約860m、水ヶ塚公園(富士宮ルート)は約1,500mとなっています。比較的標高の高い水ヶ塚駐車場は、併設のスカイポート水ヶ塚の売店や食堂を利用すると、その間の時間が高度に慣れる助けになるでしょうから、マイカー規制されていない時期でも時間に余裕があれば立ち寄ってみると良いでしょう。
遠方からの人は、麓で前泊を
また、遠方から来られる方は、標高の低い麓の旅館やホテルなどで前泊をして体を休めましょう。
富士宮口や御殿場口を登山口として来られる方は、標高1,200mにある表富士グリーンキャンプ場のコテージで前泊するのも良いと思います。特に家族連れの方などはアウトドア気分が満喫出来ると思います。また、5合目駐車場でのテント泊を考えている方も、たたでさえ混雑している駐車場にテントを張るのは他の人に迷惑となりますので、このようなキャンプ場のテントサイトを利用しましょう。
登山前に高度順応
高度に順応するうえでよく知られた方法は、登山口である5合目に着いたらすぐに登山を始めずに、30分~1時間ほどブラブラ散策するのが良いというものです。これも閉め切った車内にいるのではなく、売店を見て回るなど外気に触れないと効果は薄いと思われます。
また、自家用車で来られるのであれば、5合目に直行するのではなく、途中の適当な高度で駐車場に停めて5~10分でも休憩を取るのも良いと思います。ただ、須走口のふじあざみラインでは車を停めるスペースがないので難しいとは思いますが。
山登りもゆっくりと
ゆっくりと登ることは体力を温存する登り方としても有効ですが、高山病対策としても低い気圧に徐々に身体を慣らすために重要です。特に最初の30分はウォーミングアップのつもりで、ゆっくりゆっくり登りましょう。
以上のことに関連して言われるのが、宿泊は低い標高が良いというものです。高山病は主に酸素不足によるのですが、睡眠時は無意識に呼吸を抑制しているために寝ている間に高山病にかかってしまうケースが多いと言われています。かといって、睡眠をとらないと別の意味で体調に支障をきたすので、次善の策として出来るだけ低い標高の山小屋に泊まった方が良いとされているのです。
特に吉田・須走ルートの8合目は、常に満員で混雑しているので、気も休まりませんし、多くの人が締め切った建物の中で呼吸するので、酸素も薄くなりがちです。
実際に、睡眠中も窓を開けて外気を取り入れるようにしている山小屋もあります。
山小屋に着いても少し体を動かそう
また、山小屋に着いてからも、疲れているからといってすぐに横になったりするのは良くありません。出来れば山小屋から少し上の高度(100mほど)まで登って少しの間そこに留まり、また降りてきて泊まるようにすると高度順応の助けになります。
これは、エベレストなどの高所登山でも実践されている高度順応の方法ですが、山小屋到着の時点ですでに疲労困憊しているようでしたら、体力の温存を優先する判断も必要です。(但し、吉田ルートのように登山道と下山道が明確に分かれているルートでは登山者の流れに逆らって下山することになり、他の登山者の迷惑になるので8合目以上の場合に限ります)