登るべき山と主要な目的、ルートを定めた後は、どのようにしてその目標を達成するか、その方法を考えましょう。
まず選択肢として、宿泊を前提としない日帰り登山と、一日あたりの負担を減らすことを目的とした山小屋宿泊による、1泊2日(あるいはそれ以上)の行程の2つがあります。それぞれにメリット、デメリットがありますが、やはりここでも重要なのは、「目標」を達成するにはどちらが有利かという視点です。元々仕事の都合などで2日分の休みが取れないなどという人は、そもそも選択肢が無いわけですから、迷うことはありません。ここでは、どちらでも選べるという人を対象に考えてみました。
では、日帰りと山小屋泊を分ける要素とは何でしょうか?経済的な理由を別にすれば、体力と体調管理でしょう。さらに山小屋の快適度というのも盲点です。
- 体力の問題
- 富士山の標準コースタイムは、登りだけで6~7時間(御殿場ルートは9時間弱)となっており、これだけの長い時間登り続ける体力があるかどうかが課題です。そして、登頂だけで体力を使い果たすようではいけません。下山のために少なくとも3割の余裕が必要です。実際に富士山を登っている若者を見ていると、ほとんど体力を使い果たして息も絶え絶えになっている様子からして、10代20代でも全くスポーツをしていないようでは、日帰りは厳しいようです。しかし、事前に2~3回でも登山を経験していれば、10~30代であれば日帰りで行けるはずです。40代以上では、普段からスポーツ、登山をしているか、少なくとも毎日散歩を欠かさないぐらいでないと、日帰りは難しいと考えるべきでしょう。
とは言いつつも、絶対に無理というわけではありません。ようは、体力の不足を補う登り方が出来るかどうかです。いずれにしても、事前に少なくとも1回は練習登山をしましょう。「ぶっつけ本番」では、あなたが日帰りできるかどうかは誰にも(あなた自身にも)分かりません。 - 体調管理の問題
- 体調管理とは、一言で言えば、登山前に睡眠を十分に取れるかどうかです。特に山頂でのご来光を目的とする場合は、日帰りでは夜間の登山となり、徹夜でなくとも睡眠不足であることは避けられません。遠くから来るのであれば、麓か5合目辺りに前泊が必要ですし、比較的近くからであっても、5合目に停めた車内で仮眠を取るか、電車や高速バスの席で十分な休息を取る必要があります。前日夕方や夜中に自宅を出発するのであれば、早めに寝るような変則的なことが出来るかどうかですが、多くの人にとっては難しいと思います。
もうひとつは、高山病の問題です。山小屋に泊まると翌朝に高山病の症状を訴える人が少なくないようです。これは、睡眠中は呼吸が抑制されるために、酸素不足になって高山病を誘発するようです。これを避けるには、出来るだけ標高の低い場所にある山小屋に泊まるべきですが、その分山頂からは遠くなるので、翌日が厳しくなるという悩ましい問題があります。 - 山小屋の快適度の問題
- ここまでは、山小屋に泊まれば体力が回復するという前提で書いてきました。しかし、これは必ずしも全てのケースに当てはまるわけではありません。というのも、山小屋泊は山小屋泊なりの問題を抱えているからです。
これは、主に山小屋の混雑と設備に起因する問題です。山腹や山頂の狭い敷地に建つ山小屋は、下界のホテルのようなスペースは確保できませんから基本的に大部屋に雑魚寝となり、個室が取れる山小屋はほとんどありません。しかも、宿泊客が多いときには畳一枚分の広さに2~3人が詰め込まれることもあります。そうなると、ゆっくり体力を回復させるどころではなく、慣れない人では眠れぬまま出発の時間を待つことになり、却って疲れるということにもなりかねないのです。
(※もちろん、快適に過ごせるように気配りされた山小屋も多くありますし、いつでも満員で混雑しているわけでもありません。)