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LastUpdate 2016/04/28

ストックで下る

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意外と難しい、下りでのストックの使い方。

ストックで安全下山

登山において、最も気をつけるべきは下山のときであると言われています。

身体は疲れきり、集中力も切れ、足元は不安定で、実際に滑落や転倒、道迷いは下山時に多く発生しています。それはストックを使っていても同様です。

前のページでは、主に斜面を登るためにストックを推進力として使う方法を説明しました。それによって足の疲労は軽減され、体力的に多少の余裕が出来るはずですが、ストックを使っていかに安全に下るかを考えてみましょう。

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ストックに体重を掛けない

ストックだって滑るときがある

まず、初心者が犯しやすい間違いから検証して行きます。

多くの初心者は、ストックに体重を掛けて使う傾向があるようですが、これは一歩間違うととても危険です。体重を掛けたストックの先が滑ったり、斜面が崩れたりした場合を考えて見ましょう。このような人は、足が滑ったり、手を掛けた岩が崩れたりすることは経験していても、なぜかストックが滑らないことだけは頑なに信じ込んでいるようです。
特に富士山のような火山礫で出来た山は、岩が風化によってもろくなっており、細かな石や砂で滑りやすくなっているので注意が必要です。

ジャンプは出来るだけ避けよう

また、ときおり両手のストックを大きく前方に突いて、段差をジャンプで降りていくような人もいるようです。

ストックは、うまく使えば膝への衝撃を緩和する効果があるのは確かですが、自ずと限界があります。あえて自分からダメージを大きくするような行動をとっていては、ストックの効果も半減です。

前にも書きましたが、膝は消耗品だと思って労わりながら使うべきです。ストックで体重を支えて衝撃を緩和するといっても、着地のときは体重の何倍もの力が加わります。それを腕の力だけ支えるのは、よほどの膂力(りょりょく)がなければ不可能です。

嘘だと思ったら、鉄棒の支柱を持って身体を持ち上げる動作を試してください。これが腕の力で体重を支える動作です。もちろん、これでは体重の1倍しか重さは掛かっていませんが、それでも「腕の力で体重を支える」ことがどれだけ大変か分かるはずです。

ストックを使っても、ステップが粗くならないように

腕の力で身体を支えようと思ったら、出来るだけ身体の動きに加速度を加えないことが重要です。加速度を加えなければ、体重の1倍を腕で支えるだけで済むからです。
つまり、ストックがあろうが無かろうが、膝を壊したくなかったらジャンプはしないことです。

さらに、ジャンプはしないまでも、大きな段差を一歩で降りようとすると、同じ高さを小さい段差で数歩に分けて降りるよりも足の負担は大きくなります。出来るだけしっかりした足場で、より小さな段差を選んで降りることを心がけましょう。

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斜面の角度に合わせて柔軟に使い分ける

前のページでも、下りだからといってストックを長く調節する必要はないと書きました。ですが実際には急な下り斜面や大きな段差では、踏み出す足の足元にストックを突くといっても、そのままではやはり地面に届きません。ではどうすれば届くのか、それは山の歩き方とも密接に関わっていることなのです。

まず、下り斜面にも色々と違いがあり、状況によってストックを使い分ける必要があることを理解してください。

緩やかに下る斜面では、登るときと同じようにストックを推進力として使います。この場合の推進力は加速するという意味ではなく、あくまでも足の動きを補助するということです。推進力は必要ないと思えば無理にストックを使う必要はありません。

推進力を掛けなくても自然にスピードが出てしまうような斜面では、今度はストックをブレーキとして使います。あるいは、バランスを取るために使います。具体的にはリスト(手首)の反しでストックを斜め前に突き、重心の移動と共に身体の近くに持ってきたストックをまた先に突くという繰り返しです。(但し、これが最善かは自分でもまだ確信が持てていません。今後も検証を続ける考えです)

そして、斜面の角度に関わらず、下りでストックを使うときに共通する約束事がいくつかあります。

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下りでは前傾姿勢が基本

スキーを見習って


スキーのように
(image from 写真素材 足成)

前傾姿勢というと、スキーで滑るときの姿勢を思い描いていただくと分かりやすいかと思います。

私はスキーはやらないのですが、軽く膝を曲げて上体を少し前に倒して滑っている様子は冬季オリンピックなどでも良く見る光景でしょう。決して膝を伸ばして、身体を真っ直ぐに起こした体勢で滑っている選手はいないはずです。
但し、膝はあくまで気持ち軽く曲げる程度にしてください。あまり膝を曲げすぎると、スクワットを途中で止めたように大きな負荷が掛かり、却って足が疲れます。

カカトに重心が掛かると簡単に滑ります


(GIFアニメ)

登山における姿勢も同じことです。これはストックの有る無しに関わらず、前傾姿勢で爪先に重心を置いた方が安定して降れるのです。

逆に、下りの急な斜面におっかなびっくりで腰が引けてしまうと、重心がカカトに掛かり、その姿勢で足が滑ると体勢を立て直すことも出来ずに後頭部から倒れることになり、とても危険です。

例えストックを使っていても、後傾姿勢では身体を支える役には立たちません。それはいかにストックを長く調節していても同じです。いえ、むしろストックを長く調節していた方が後傾姿勢になりやすいと言えるでしょう。


先のページでも書いたように、ストックを登りと同じ長さにしていても、前傾姿勢であれば自分の踏み出す足の位置にストックをつく限りは丁度いい長さになるはずです。あるいは、肘の角度の微調整や、肩(腕)を少し上げ下げするだけでアジャスト出来るでしょう。しかし、ストックを下りだからと長くしてしまっていては、上体を起こして使うような姿勢にどうしてもなってしまいます。

あるいは、前傾姿勢が取れていても、ストックの長さが余ると踏み出す足よりもずっと前の方へ突いてしまったり、肘が120°以上に開いてしまって、やはり上体が安定しないのです。

手首の角度も大切


ちなみに、上の画像の一番左の姿勢で肘を曲げると、ストックが身体に近づく分だけ斜面のより高い位置に突くことになり、結果として肘と腕が上がってしまい、鉛直(重力の方向)にストックを突いた状態を保とうとすると、手首を不自然なほどに強く曲げなければいけなくなります。
そこで窮屈でない、手首がより自然に使える姿勢をとろうとすると、結果的に肘を伸ばして前方に大きくストックを突かざるを得ないのです。

一方で、上の画像の一番右の例のように肘が身体に近く十分に下がっていれば、手首も真っ直ぐに近い状態で使えるのでいつでも柔軟に使えます。

取り回しのしやすい角度

但し、手首は巻き込むように曲げていた方が力を入れらるのも事実です。しかし常に曲げた状態では、地面の状況や自分の体勢に応じた柔軟な対応や咄嗟の反応が取りにくくなるので、手首は基本的に真っ直ぐに近い状態で使い、状況によって手首を上にも下にも左右にも自由に曲げて対応できる余地を残した方がより安全なのです。

また、手首に力が入ると肘や腕にも無駄な力みが生まれるので、常に柔軟性を意識してください。これは肘も同じです。
肘の角度を維持するといっても、ガチガチに力を入れていては疲れるだけで良いところは何もありません。グリップの握り方と同じで、手首、肘、腕、肩も適度にリラックス(脱力)させた状態から、地面を押す短い時間だけ、軽く力を加えることが効率的、且つ持続的に筋力を活かすコツです

このように、ストックの長さを考えるときも、歩き方と姿勢、肘の角度と位置、手首の使い方などから総合的に判断する必要があり、「下り斜面だから長くするのが良い」という単純な判断は出来ないのです。

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大きな段差の降り方

さて、約束事の2番目の手と足の連携について。

現在と違う?江戸時代の歩き方

普通、歩くときは踏み出す足と振り出す手は互い違いになっていると思います。例えば、右足を踏み出すときは左手を振り出すというように。
しかし一説によると、江戸時代以前の日本人は右足に対して右手というように、同じ側の手足を使って歩いていたそうです。特に、飛脚が長い距離を走り通すのに、この歩行方法が大きな意味を持っていたと言われています。この歩き方は、今では『ナンバ歩き』、あるいは『ナンバ走り』と呼ばれています。

登山においてもナンバ歩きは有効であるという意見もあるようですが、ストックを登りで使う限りにおいては、互い違いで手足を出した方が有効なように思えます。ところが、下りにおいてはナンバ歩きのように同じ側の手足を出している自分に最近気がつきました。
なぜそのようになっていたのか、自分の場合は完全に無意識によるものですが、これを検証すると興味深いことが分かって来ました。それは、大きな段差を降りるときによりハッキリするので、約束事の残りの2つと一緒に検証してみましょう。

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肩を入れる

大きく身を乗り出さない


肩の入れ方のお手本
(image from 写真素材 足成)

ストックを使いながら段差を降りるときに、少なくない人が身体を大きく乗り出してストックを可能な限り前に突き、ストックに体重を預けてポンと飛び降りるような動作をしています。これは多くの点で問題がありますが、まず先に私の考える段差の降り方を説明してから比較検証してみることにしましょう。

まず、とても大事なことなので先に書いておきますが、前傾姿勢と言っても身体を前に乗り出すことではありません。そこまですると、バランスを崩したときに危険ですので、重心はあくまで身体の下に残すことを意識して行ってください。

ストックを突く位置は、身体から大きく離さないことが大前提です。基本的に自分が踏み出す足元、段差の下の足場と想定するところの横に突きます。
踏み出す足自体も、出来るだけ段差から離れずに、比較的水平で安定していることを前提に小さい幅のステップとします。こうすることによって重心が不用意に前に倒れる危険性を減らし、同時にストックは短くて済み、身体の動き、バランスも安定するのです。

また、バランスはあくまで自分の身体で取ってください。ストックは補助のために使うのであって、ストックに頼って体重を掛けるような使い方は間違いです。

下りでは、自然と手足の同じ側が出る

段差が大きいときは、軽く前傾姿勢をとっていてもストックが下に届かないかもしれません。そのときに行うのが、「肩を入れる」という動作です。
肩を入れるというのは、踏み出す足の側の肩を前に突き出すことを意味しますが、感覚が分かりづらければロダンの彫刻、「考える人の」ポーズをとってみましょう。

具体的には、椅子に座った体勢で右肘を左足の膝の辺りに着けてみてください。身体が捻られて右肩が大きく前に出て、同時に下に下げられると思います。左肩はそのままで右肩だけがやや下がるために、右腕が大きく下に伸ばせるようになります。
このとき、顔は突き出した肩の方を向かずに、身体の正面か、軽く反対側に逸らした方が尚腕を伸ばしやすくなります。

このような体勢を安定的にバランスを維持しながら行うには、やはりナンバ歩きのように、踏み出す足と同じ側の手を出す必要があるのです。

また、このときも肘は110°付近に固定しておくことを忘れないでください。最も力を出せる角度を保つことで、万が一ストックに体重を預けざるを得ない状況になっても、身体の安定が一気に崩れるのを防ぎます。

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重心は最後まで立ち足に残す

このようにして、段差の下に踏み出す足の足元にストックを突いたら、軽くストックを下に押して下の地面が安定していることを確認してください。その後に足を踏み降ろしますが、このとき注意するのはストックに体重を預けないことはもとより、踏み出す足にもまだ重心を移動しないことが大切です。

段差の上に残した足に重心を残すことで、身体が前に倒れこむような不安定さに陥ることを防ぎます。
また、そのためにも今自分が立っている段差の上の足場が安定していることが大切です。

安全とは、面倒で手間が掛かるもの

こうやって一々書くと「面倒くさそう」と思うかもしれませんが、慣れてくるとさほど意識しなくても出来るようになるはずです。楽に安全が守れるような、そんな都合のいい話はありません。

しかし、無意識に出来るぐらい慣れて来ても、疲れて集中力が落ちているときにはやはり意識してこれを行ってください。おそらく転倒や転落をする人の多くは、疲れて注意力が散漫になっているときに不用意な踏み出しをしてしまうのでしょう。

さて、立ち足に重心を残しつつ、踏み出した足が段差の下の足場に着いたら、下の足場の安定を確認し、重心を移動しますが、このときも勢いをつけると前傾姿勢から前にバランスが崩れ易いので注意が必要です。もちろん、ストックをなるべく身体から離さずに突いていれば、このようなリスクは元々少ないはずですが。

スクワットの効果を実感するのは下り

このような慎重な動作は時間が掛かり行動が遅くなると思うかもしれません。ですが、この動作に慣れてきたら、むしろ早くスムーズな動作で行うことが求められます。なぜなら、立ち足を残して下に足を伸ばすという姿勢は、スクワットのように大きな負荷が掛かっています。
きちんとトレーニングをしていないと、太ももやふくらはぎがすぐに疲れてパンパンになってしまうでしょう。

これをどう考えるかはあなた次第です。膝を痛めるリスクを甘受するか、膝を守るために事前に足を鍛えておくか。前にも書きましたが、膝は消耗品ということを考えれば、答えは自ずから出ると思います。

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登り以上に自制心が必要な下り

安全は、自制心と忍耐で購う

このような降り方と対照的なのが、ストックを長くして大きく前方に突き、ストックに体重を預けてポンと飛び降りるやり方です。

ストックが長い分だけ降りた後も、降りている間も重心が高くなり、体重を預けたストックが滑るとそのまま確実に転倒します。このときストラップが手首に絡みつくと手首まで傷めることでしょう。

ポンと飛び降りることで、着地の衝撃は体重と荷物の重さに加速度をかけたものとなり、膝に大きな負担を与えます。足元を確認せずに飛び降りてしまえば、足場が浮石だったり、ぬかるんだ土だったり、そうでなくても足が滑ったら転倒を避け得たとしても足首を捻って捻挫するリスクはとても高いものになります。

慎重に気を使いながら降りるということは、それだけ自制心と忍耐を求められます。ときに、それは体力や筋力よりも重要なものになるのです。

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山では見栄を張るな

ストックが届かない高さでもストックに拘る愚

実際に山登りをしていると、先に書いた肩を入れるやり方でもストックが下に届かないような大きな段差もあります。
このような場所ではやはりストックの長さが必要なのでしょうか?

いいえ、むしろこのような場面では、ストックを使うこと自体が間違った選択です。

そもそも、段差の上から下に足が届かなくなるので、どんなにストックを長くしてもポンと飛び降りることになります。これはやはり避けるべきです。

ストックを使わない選択

ストックの使い方のページでも一番最初に書いたように、「ストックを使うべきではない場所を正しく判断することこそ重要」なのです。

このような場所ではストックは段差の下に立てかけて、手足を使って降りてください。決してそれを「恥ずかしい」などと思う必要はありません。
「旅の恥はかき捨て」と言いますが、山において不必要な見栄を張るということは、自分の命を危険に晒すことでもあります。四つんばいで降りるべきところは、やはり人目を気にせずに四つんばいで降りるべきなのです。それを笑う人には笑わせておけばいい。私はそう思います。

具体的には、腰を屈めて段差の縁に手をかけ、場合によっては段差に腰を下ろすようにして下に届くまで足を伸ばしましょう。
滑りやすいところや、段差ではなくても急斜面では、山側に身体を向けて後ろ向きに下りる方が安全な場合もあるでしょう。ストックを持っているからといって、ストックを使うことに捉われ過ぎないことが大切です。

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ステップは小さく

さて、ここで山の歩き方の基本に戻りましょう。段差といっても、人間の作った階段のように一様ではありません。複雑に入り組んで、複数が組み合わさり複合的な形をしている段差も少なくないでしょう。

このような段差を降りるときは、ストック無しで歩くときと同じで、出来るだけ高さのない段差を選んで、一歩の高低差を少なくしてやることが大事です。その際には、その小さな足場にはストックを突く幅が足りないでしょうから、ストックは大きく一歩で降りる場合と同じ、安定した下の足場に突きます。ストックはそこに突いて、足だけは細かいステップで降りるのです。こうすることによって、少しでも膝に掛かる負担を減らしましょう。

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転ばぬ先の杖

長々と書いて来ましたが、「おおげさ過ぎるなぁ」「リスクを強調し過ぎ」と思う人もいるかもしれません。それは、まだ膝を傷めていないからこそ言えるのだと思います。

膝を傷めるまでは、どれだけ膝に負担を与えているか気がつかないものです。そしてある日、膝の痛みを感じてから思うのです、「あぁ、もっと気をつけていれば良かった・・・」と。

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