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LastUpdate 2016/04/28

ストック(トレッキング・ポール)の基礎知識

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登山で使われるストックについて。



登山用ストックとは

Stock(ストック)』とはドイツ語で「杖」を意味し、英語では『Stick(ステッキ)』となりますが、とくに登山に使う杖は『TrekkingPole(トレッキング・ポール)』と呼ばれます。英語とドイツ語の呼び方の違いだけで、ようはアウトドア用の杖であることに違いはありません。

形状はスキーで使うストックと同じですが、携帯しやすいように伸縮が可能になっているところが違います。

日本の登山界は、歴史的にヨーロッパの影響を強く受けて来たことから一昔前はストックの呼び名が一般的でしたが、スキー用のストックと紛らわしいためか、最近はトレッキング・ポールの名称で認知されるようになって来たようです。

長旅の友

ストック自体は近年になってからのものですが、登山に使う杖の歴史は古く、山登りがレジャーではなく旅の一行程であった時代から樫の木などの丈夫な木の棒を歩行の補助に使ったのが始まりと思われます。

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富士登山にストックは必要か?

ストックの話をする前に、まず大前提として、富士登山にストックが必要かどうかを考えてみましょう。

そもそも、富士山に限らず登山自体にストックは必須の装備なのでしょうか?

いいえ、必ずしも必要ではありません。それはなぜか、まずはストックのメリット、デメリットをあげてみます。

Check Point!

メリット(利点)

足への負担を軽減する
腕の力を使うことで、登坂をアシスト出来ます。
膝への衝撃を軽減する
他でも書いているように、登山では膝を痛める人が少なくありません。ストックは下山時の膝への衝撃を緩和するとともに、膝痛を抱えている人の歩く助けにもなります。
バランスの補助
軽くバランスが崩れた程度なら、ストックで立て直すことが出来ます。また、バランスが崩れないように、「転ばぬ先の杖」として使えます。

デメリット(欠点)

重さ
素手に対して、300~600g程度(一組二本分)の重量増になります。これは、長時間の登山では案外馬鹿に出来ない負担です。
ストックに頼る歩き方になってしまう
一般に「ストックに慣れるとバランス感覚が衰える」という意味で語られることがあります。
私としては、「道具は使いよう」であって、一律に決め付けられないと思うのですが、「初心者のうちは、まずしっかりした歩行技術から身につけるべし」という意見には説得力があります。
ときにストックにより危険を伴う
急な岩場の登り降りなど、ストックの扱いになれていない人が使うと却って危険です。特に初心者は、ストックを持つのが危険な場所かどうかを判断出来る経験が不足しているために、どんな状況でもストックを手放さない傾向があります。
また収納時でも、ザックの上部から大きくはみ出していると、枝に引っ掛けて転倒するなど思わぬ事故の原因になることもあります。

足腰がシッカリした人が短距離を歩く分には必要なし

私の経験から言えば、最初に登山を始めた時は当然ながら初心者向けの距離の短い山からスタートしました。ストックは使わなかったというより、そういうものがあること自体知らなかったように思います。でも、知っていたとしても購入しなかったかもしれません。

ストックを初めて使ったのは、登山を始めて数年経った後の富士登山でした。このときは明確に、「長い距離(時間)を歩くから必要だろう」という意識がありました。そして、その後また数年は富士山に登ることも無く、さほど長い距離の登山もしなかったので、ストックを登山に持ち出すことは一切ありませんでした。
そして、このサイトを始めた年に富士山以外でも距離の長い登山で何度か使うようになりましたが、今では富士山を麓(1合目下など)から登るときでも使わずに済ませることが多くなりました。

登山では、ストック無しでもシッカリ歩けることが基本

なぜ今は使わない方向になったかというと、ストックはあくまでも『補助』のためのものでしかないとの思いからです。つまりストックありきではないので、ストックを用意して登っているときでも、必要性を感じない限りは使いません。

今では富士山の距離や難易度、あるいは自分の体力が良く理解出来ているので、ストックを使うまでも無いということになったわけです。

こうなると、使う可能性が低い登山にストックを持っていくのは、重さの分だけ無駄だということになります。逆に積極的に使う気が無いのにストックを準備する理由としては、膝痛などを抱える人が『お守り』代わりとして念のために持っていくケースです。
ここで重要なのが、自分にとってストックが必要な道具であるかを判断出来るだけの経験があるかどうかです。その経験を身につけるためにも、登山初心者が富士山に登る前の練習登山を行う際は、ストックを持っていくにしても、まずはストックを使わずに登ってみることをお勧めします。

「でも、折角買ったのだから、使わないと勿体無い」

そう思う人もいるでしょうが、それは、「道具を使っているのはではなく、道具に使われている」ということです。
無駄かどうかではなく、必要かどうかで判断してください。

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ストックの種類

T字とI字

ストックは大きく分けて二つのタイプがあり、グリップの形状により『T(ティー)字型』、『I(アイ)字型』と一般に呼ばれています。

T字型は、所謂『ステッキ』と同じ使い方で、手のひらでグリップを包み込むように持ち、体重をかけて使いやすいような形状になっています。一方、I字型は、シャフト(柄)から真っ直ぐにグリップが伸びています。

グリップのタイプによって使用時の本数も違いがあり、T字型は一本(片手)で使うのが一般的ですが、I字型は二本一組を両手で扱い、この使い方を『ダブル・ストック』と呼びます。
もちろん、I字型でも一本だけで使うこともでき、この場合は『シングル・ストック』と呼ばれます。

私の考えでは、膝痛などへの『お守り』として積極的に使う意図なしに登山に持っていく場合は、体重をかけて使うケースを考えてT字型のシングルストックがいいと思います。

Check Point!

グリップの形状

T字型ストック


T字型の杖は、ほぼ腕の延長線上に突く
(image from 写真素材 足成)

T字型ストックは、その名の通り、グリップがアルファベットのTの形をしており、真上から体重をかけたときに安定するように作られています。特に、重い荷物を背負ったときなどに身体が前に傾き過ぎないよう、体重や荷物の重さを受け止めてバランスをとる目的で使います。
ただし、登山では、ストックに全体重をかけて使うことは様々なリスクを伴います。それはT字型グリップのストックであっても同様です。

シャフトの長さは、手を自然に下ろした位置にグリップがくればいいので、I字型と比べて伸ばしたときの全長が比較的短くて済みます。これは、重さの面でI字型よりも有利であり、縮めたときも短い方が収納しやすいので持ち運びに便利となります。中には、伸縮しないステッキを登山に利用している人もいます。

I字型ストック


I字型ストックは前に構える
(image from 写真素材 足成)

ストックを使い慣れない多くの人は、金剛杖と同じように身体を支える杖として使っているようです。もちろん、T字型のシングル・ストックであればそれで構わないのですが、I字型のダブル・ストック(両手にストックを持つスタイル)であれば、もっと効果的な使い方ができます。
使い方の詳細は後のページで詳しく説明しますが、T字型に対して比較的長く伸ばして使うので、若干重くなり、収納時も長く、仕舞いにくくなります。

スキー用のストックをそのまま登山に使っている人もいます。伸縮は出来ないので岩場では邪魔になることもありますが、ジョイント部分が無いので強度的には有利な面があります。

ハイブリッドタイプ

最近は、グリップ上部がT字型で、下部がI字型のように握れるハイブリッドタイプ(混合型)のものも売られています。状況によって使い分けが出来るメリットがあります。
また、T字型ではなく、グリップ上部が卵型で、上から包み込むように持つことが出来るタイプもありますが、上から体重をかけたときの安定感はT字型に劣ります。

どちらも、グリップ形状以外はI字型と同じ仕様となっています。

金剛杖(こんごうづえ)


金剛杖
(at 雲海荘)

富士登山では、他に『金剛杖』も良く使われています。
金剛杖は、断面が八角形の木の棒で、修験道(しゅげんどう)の行者(ぎょうじゃ)が使っていたものです。ただの木製の棒ですから、当然伸縮機能はありません。

長いものでは男性の顔の高さぐらいまで長さがあり、正直に言えば、岩場や山小屋、電車やバスの車内で邪魔になるので、あまりオススメ出来ません。しかし、各山小屋で焼印(やきいん)を押すことが出来る(有料)ので、富士登山の記念にもなるということで人気があります。

なお、金剛杖は登山道具店では売っていません。富士山の山小屋で売られているので、現地調達ということになります。

富士山では、金剛杖を両手に持った、「ダブル金剛杖」も良く見かけられます。

最大長伸縮特徴
T字型ストック70~100cmほど短め
  • 体重を支えるように使うことが出来る
  • 主に、一本で使う
I字型ストック100~130cmほど長め
  • 身体を押し上げる推進力としての使い方に適する
  • 主に、二本一組で使う
金剛杖100~150cmほど不可
  • 焼印を押して富士登山の記念に出来る
  • 岩場や電車・バスの車内などで邪魔になる
※長さは一般的な数値であり、製品によって違いがあります。
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機能によるバリエーション

素材や構造の違いで選ぶ

ストックには、各部品の構造や素材によるバリエーションがあります。自分の用途に合うグリップ形状を選んだら、さらに素材や構造で絞り込みます。

まず、シャフトの素材にアルミとカーボンファイバー(炭素繊維)の二種類があります。主に重量と値段が選択の基準となりますが、強度的な特性にも注意を払う必要があります。ようは、「軽ければ軽いほどいい」という単純なことではないのです。

そして、ジョイント部の固定方法の違いです。ねじ締め方式では、固定が甘いと使用中に不意に縮んでしまうことがあり危険です。これは、締め込みが甘い不注意によるものと、締め込みの力が足りていないことの二つの理由によります。
締め込み不足は、握力が弱い女性などにありがちなので、握力によって固定力が左右されないような機構が採用されるようになって来ました。それぞれの長所短所を理解し、実際に店舗で試すなどして選ぶことが大切です。

Check Point!

シャフト(柄)の材質

アルミニウム合金
アルミは鉄などに比べて軽いことから、ストックのシャフトに広く使われています。その反面、鉄に比べて強度が劣り、強い応力がかかるとシャフトが曲がってしまうこともあります。
カーボンファイバー(炭素繊維)
カーボンは、アルミに比べてもさらに軽いうえに硬度も高いのですが、靭性(じんせい=ねばり)に欠け、曲げ応力に弱いことから強度の限界を超えると一気にバキッと折れてしまう欠点があります。アルミのように曲がるだけであれば、短縮化することが難しくなるだけで杖としての機能はなんとか果たせないこともないですが、折れてしまえばそれで終わりです。
また、素材としてアルミよりも高価でもあります。
Check Point!

ジョイント部の固定方法

ねじ締め(スクリュー)式
最も一般的な方式です。柄を水平方向に回転させて締めこむことによって固定するため、多少の握力が必要です。構造が単純な分、故障などは起こりにくいようです。
レバーロック式
レバーによってジョイントを固定する方式で、固定強度が握力に影響されないことと、長さ調節がワンタッチで簡単かつ確実に短時間で済むのがメリットです。特に握力の弱い女性に人気がありますが、ねじ込み式に比べて固定強度が若干弱いという指摘もあり、体重をかけて使う用途には向きません。固定強度は調節が可能なので、使用前に適切な固さに調整しておく必要があります。
また、レバーの部品が出っ張っているので引っ掛けたり、邪魔になるもあります。
折りたたみ式
分割されたシャフトをワイヤーでつないだものです。ワイヤーにテンションをかけることで固定するので、構造上、垂直方向にかかった力で不意に縮むようなことがありません。一方、長さの調節が出来ないモデルもあるので、サイズ選びは慎重に行う必要があります。
シャフトが『入れ子』になったねじ締め式やレバーロック式のように重なる部分の遊びが少なくて済むので、収納時に短く出来るメリットがあります。その反面、シャフトを入れ子に出来ず、束ねることにより幅をとるので、ザックのサイドポケットに仕舞えるかどうか、事前に確認を要するでしょう。

軽さの面でもメリットがありますが、長さ調節が出来るようにねじ締め式やレバーロック式とのハイブリッドになったモデルでは、軽さのメリットも少なくなります。
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購入時のアドバイス

細かい分類で、段々混乱してきたでしょうが、購入時に気をつける要素はまだあります。

アンチショック、長さ、グリップの素材と握り部分の形状です。

アンチショックと長さは、そのまま重さに直結します。グリップの素材や形状は、扱いやすさだけではなく、いざ「バランスを崩した」というときにグリップをしっかり握れるかどうかを左右しますので、軽視出来ない重要な要素です。

Check Point!

その他の選択肢

アンチショックの有無

ストックを地面に突いた時にスプリング(バネ)がクッションとなり、手首など関節へのショックを和らげるとされる機能です。ガツガツとストックを強く突き立てると手首に反力が強くかかり、疲労とダメージが及ぶ可能性があります。それを防ぐ目的でつけられているのがアンチショックです。
良さそうな機能に聞こえますが、ストックを突くとスッと沈みこむ動作により、剛性感に欠ける印象を持つ人もいます。また、部品が増える分だけ重量も嵩みます。

個人的にはアンチショック機能は特に必要ないと考えます。手首が痛くなるのは、使い方が荒いのではないでしょうか?

シャフトの長さ

ストック使用時の長さは、あなたの使い方と身長で決まります。

長さは一モデルに一種類しか設定していないメーカーもあり、まずは機能で選んで問題ありません。しかし、使うことの無い余分な長さは、すなわち無駄なオモリを持つことと同じです。選択出来る余地があるのであれば、長すぎないサイズのものを選びましょう。
なお、ストックを使うのが初めてという人は、自分に合った長さを把握するのは難しいでしょう。ですので、折りたたみ式のタイプ(特に長さ調節の出来ないモデル)は選ばない方が無難です。

さらに、収納時の長さも重要なポイントのひとつです。基本的に、使用するザックによって外に括り付けるのか、中に収納しないといけないのかが決まってしまいます。短縮時の長さは単に収納が出来るかどうかの問題だけでなく、外に括り付けたストックの先がザックの上に大きく飛び出すようだと、木の枝に引っ掛けて転倒したり、人にぶつけて怪我をさせたりしてとても危険だからです。

グリップ素材と形状

意外と見過ごされがちなのですが、グリップの材質による違いも重要な要素のひとつです。

ウレタンフォーム、ゴム、コルクなど様々な素材が使われていますが、選択のポイントはただひとつ、手が滑らないかどうかです。個人的には、ゴムのグリップが滑りにくくオススメですが、これも店舗で実際に確認して選ぶことが大切です。
さらに、グリップの握り部分の形状によってストックの取り回しが影響を受けます。グリップ形状が悪いと、とっさに強く握ろうとしたときにうまく掴めず、不安定になります。木の根っこを跨ぐとき、岩場を通過するときなどに取り回しの良し悪しで違いが現れます。


エクステンドグリップ
(image from 写真素材 足成)

また、最近はグリップが下方に長く延長されたエクステンドグリップ(ロンググリップ)もあり、持ち手を延長部分に移動させることで長さ調節の手間が省けますが、延長部分には鍔(つば)がありません。
グリップの鍔は手のひらの下部を支えることで、ストックを突いたときの下方向の力をストックに伝達し、グリップから手が滑り落ちないための役割を担っています。鍔のある部分を持つことで、長い時間でも疲れにくく、より安全に扱えることを理解して使いましょう。

石突チップ(スピッツェ)の素材と、交換の可否

石突は、使用しているうちに磨り減っていく消耗品です。

石突チップの素材が明示されていないメーカーもありますが、タングステンカーバイドという超硬合金製のものが安心です。石突チップのエッジ(角)が削れて丸く磨耗していると、岩の上などで滑ってとても危険です。
安物の製品では、この石突のチップが固定されていて交換出来ないものが多いです。長くストックを使うつもりであれば、交換チップが用意されている製品であるかどうか、購入前に確認しておきましょう。

Check Point!

初心者にオススメのストックは?

登山初心者の方にオススメなストックは以下の条件を満たすものと考えます。
ただし、先にも述べたように、ストックは用途によって選択基準が変わってきますので、これでないとダメとか、これを選んでおけば間違いない、というものではないことをご理解ください。

1 - グリップ形状
I字型グリップで二本組
2 - シャフトの素材
アルミシャフト(カーボン製のものは、トレイルランニング用など極端に細く軽いものは避ける)
3 - ジョイント部の仕組み
男性:ねじ締め式 or 折りたたみ式を選ぶ(長さ調節機構の有るもの)
女性:レバーロック式 or 折りたたみ式を選ぶ(長さ調節機構の有るもの)
4 - 収納(短縮)時の長さや幅
自分のザックに収納できる長さや、サイドポケットの幅に収まるものを選ぶ(ただし、完全にザックの長さに収めるのは難しい)
5 - グリップの素材と形状
ゴムなど手が滑りにくい素材
前後左右に振ってみて、思い通りに扱いやすいものを選ぶ(エクステンドグリップは、有れば便利だが無くても支障ない)
6 - アンチショックの有無
アンチショック無し(有っても無くても大きな支障は無いので拘り過ぎないこと)
7 - 石突チップ交換の可否
石突チップが交換用部品として用意されている製品を選ぶ

ある程度絞り込んだら、必ずグリップの感触、取り回しを、直に手にとって確認してください。
その上で、無駄に長くなく、より軽いものを選ぶといいでしょう。

種類間違いに注意

最後に、購入の際の注意事項をひとつ。

ストックは、登山用、スキー用の他に、「ノルディック・ウォーキング」用というのがあります。これは、基本的に傾斜のない平地をエクササイズ的な目的で歩くときのもので、グリップに鍔(つば)が無くノッペリしているなど、機能的に若干の違いがあります。

登山に利用出来ないわけではないですが、紛らわしいのでお間違いなく。

Check Point!

ストック販売主要メーカー

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