富士山 富士宮ルート
駿河湾と伊豆半島を眼下に望むルート。
駿河湾と伊豆半島を眼下に望むルート。
登り始めの標高が最も高いルート
富士宮ルートは、富士山を南斜面から登る登山道で、他のルートと比べて標高が最も高いことから、「初心者に向いている」と紹介されることの多いルートです。ですが、それだけをもって初心者に最適であるとは言えません。
富士宮ルートの難所
富士宮ルートは、ルートを通して砂の載った岩場が続き、特にこれといった変化の無いルートです。つまり、この砂の載った岩場を安全に登り下り出来る歩行技術があれば、標準コースタイムから大きく遅れることもないでしょう。
しかし、実際には少なくない数の人が下りで膝を痛め、転倒による負傷事故も最も多く発生している油断出来ないルートです。
登山道と下山道が一緒
富士宮ルートは、富士山の四つのルートで唯一登山道と下山道が別れていないので、御来光の後と、日中の登山者が下山してくる朝夕は混雑し、道幅の狭い箇所や岩場で待たされることもあります。道も狭いので、日の出前の時間は、御来光を目指す登山者で渋滞することもあるようです。
もしそれで登頂が遅れると、富士宮ルートは富士山の南斜面を登る事から、山頂に出るまで御来光が見られないことにも注意が必要です。
登山ルート | |||
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標高 | 山頂3,712m 5合目2,380m | 標準コースタイム | 登り5時間10分 下り3時間30分 (*2時間55分) |
標高差 | 1,332m | コースタイム実例 | 登り*4時間20分 下り*2時間49分 (***3時間19分) |
距離 | 登り4.3km 下り4.3km | ||
交通 | |||
バス | 登山バス2路線 高速バス1路線 | アクセス道路 | 富士山スカイライン |
最寄り駅 |
| 通行料 | 無料 |
最寄バス停 | 『富士宮口五合目』バス停 | 駐車料/収容台数 | 無料/500台 |
*管理人による食事・トイレ以外の小・中休憩時間を含む実測(ストック不使用)。**左同、ストック使用。*御殿場口下り六合、宝永火口経由の場合。 | |||
※標準コースタイムは昭文社発行の『山と高原地図 富士山 御坂・愛鷹』2012年版から引用。基準として①40~50歳の登山経験者②2~5名のパーティ③山小屋利用を前提とした装備(テントを持たず比較的軽量という意味)④夏山の晴天時としています。※食事やトイレなどの休憩(大休止)を含まない正味の時間であり、休憩等を含む実際の登山ではさらに時間が掛かりますので、計画を立てる際には注意が必要です。 ※このサイトにおける「山頂」とは各登山道の終点、つまりお鉢巡りコースとの合流地点とし、最高地点「剣ヶ峰」とは分けて表記しています。各登山道終点の標高は、こちら(静岡県/県道富士公園太郎坊線標高日本一)を参考にしています。 |
君子危うきに近寄らず
富士宮ルートの魅力は、なんと言っても山頂までの近さにあるでしょう。その一方で、砂が載って滑りやすいガレ場での下山は転倒のリスクが最も高いことに注意が必要です。
しかし、そのマイナスを補う方法があります。それは、あえて下山時に別のルートを選ぶことです。
登りは普通に富士宮ルートを登り、下山のときは御殿場ルートで下り六合まで降り、宝永火口を経由して富士宮口五合目へ戻るコースを辿ることで、より安全な計画となります。
御殿場ルートを下ると、おまけに良い景色も楽しめる
御殿場ルートは、下るにも比較的安全かつ楽であるだけでなく、宝永山や宝永火口の景色も楽しめる一石二鳥のコースです。
富士宮ルートほどに登山者が多くないので、すれ違いで待たされて予定外に時間が掛かるようなこともありません。このため、富士宮ルートよりも早く下ることが出来る可能性が高いです。
折角だから、宝永火口も見ておこう
さらに言えば、宝永第一火口縁からそのまま6合目に戻るよりも、御殿庭側へ下ってから5合目駐車場へ戻るコースがオススメ出来ます。宝永第二火口縁から見上げる宝永山の高度感やスケール感は、見逃すには惜しい富士山の見所のひとつであるからです。
富士宮ルートをそのまま下山に利用する場合でも、宝永火口の上ぐらいまで足を伸ばすのはさほどの苦労もないので、宝永山と宝永火口を一目見てから帰られることをオススメします。
但し、火口まで降りてしまうと、登頂後の消耗した体力で登り返すのは一苦労であることを申し添えておきます。もし体力と時間に余裕があるなら、宝永山へ登頂してもいいでしょう。
夜明け前に登り始めて、宝永山で御来光を見てから富士山山頂に挑むのもオススメです。
富士宮ルートは、上から下まで砂と岩の殿堂といった感じです。景色の変化には乏しいですが、右手に見える宝永山が、どこまで登って来たかの目安になります。
山小屋は適度な間隔で配置され、登山の趣を壊さない程度の数に収まっています。登山道と下山道が別れていないのはデメリットでもありますが、逆に、すれ違う人との交流を楽しむ気持ちがあればメリットであると考えることも出来るでしょう。
なお、富士宮ルートのブルドーザー道は、原則通行禁止となっています。
富士山富士宮ルートの一般的な登山口となる、富士宮口五合目です。
施設は、売店兼食堂が1軒と、案内所兼派出所があります。
案内所の階段を下ると公衆トイレがありますが、そこは汲み取り式です。そことは別に、バイオトイレがレストハウス裏手にあります。5合目から少し登ったところに比較的新しい公衆トイレがあるので、有料ではありますが、そちらを使ってもいいでしょう。
出だしから結構急傾斜
総合指導センター前の階段が、登山口となります。6合目までの距離は短いですが、意外と傾斜はキツイので滑らないように確実な歩行を心がけましょう。
5合目駐車場東側から宝永第二火口縁へ向かうバイパスルートもありますが、第二火口縁から第一火口縁への登りが急傾斜の滑りやすい砂の斜面で、あまりオススメ出来ません。
6合目には、2軒の山小屋が並んで建っています。どちらも土産物の購入だけでなく食堂としても利用出来るので、登山前後の腹ごしらえに便利です。
ここからが本番
6合目の二軒の山小屋の前が賑やかなせいか、そこから先が本格的な登山の始まりという感じがします。
路面状況は出だしから悪く、足の置き場所は慎重に選んだ方がいいでしょう。道端にはゴロゴロと大きな岩が転がっていますが、これらは上の斜面から落ちてきたものです。特に夜間には気をつけなければいけないですが、気をつけると言っても真っ暗闇では避けようがないのが現実です。せめて、おしゃべりは少し控えて落石の音に神経を集中するようにしましょう。
7合目には2軒の山小屋がありますが、距離は離れています。
急な岩場は、足の置き場所を慎重に見定めて
徐々に剥き出しの溶岩による岩場が出てきます。岩場自体の距離は短い場合が多いですが、冷えて固まった溶岩の凸凹は複雑な形状をしており、足をどこに置くべきか迷うほどです。
特に夜間は足元だけでなく先の方までライトで照らし、安全なルートを選びながら登りましょう。ルート取りが悪いと、登った先の方で大きな段差を無理に越えないといけなくなったりして、体力を消耗することになります。
八合目には、1軒の山小屋と救護所があります。
最後の岩場
胸突山荘は標高が高い場所に建つので、その先から見上げた山頂は近くに見えますが、まだ険しい岩場が続いており決して油断してはいけません。下からも白く見えている鳥居をくぐったら、すぐ山頂に到着です。
まだ道半ばです
富士宮ルートの下山は他のルートに比べて技術的に難しく、万が一転倒した場合には怪我をするリスクが少なくありません。これは、他のルートの下山道がほとんど砂地であるのに対して、富士宮口登山道は砂と岩のミックスになっているからです。
砂地であれば転んでもクッションになるので、それほど大怪我をすることはありません。しかし、岩の上では話しは別です。尻餅をつくにしても岩の上では衝撃が大きく、ときに大怪我につながることもあります。
より安全な歩き方を身につけ、最後まで気を抜かずに慎重に降りましょう。さもなければ富士宮ルートでの下山を諦め、御殿場ルートを『下り六合』経由で富士宮口五合目へと降りることも検討しましょう。少し遠回りになりますが、他の登山者とのすれ違いで待たされることもないので時間が読みやすく、計画も立てやすいことがメリットとして挙げられます。
ココから先が最も注意を要する
富士宮ルートに下山道はとくに設けられていないので、登って来た道をそのまま下ります。
岩の上に砂が載ったところは特に滑りやすく、注意が必要です。このような状況では、「平らなところに足を載せる」ことはむしろ危険です。靴底と岩の間に入った砂で滑るからです。「岩の出っ張りにソール(靴底)の溝を引っ掛ける」ようにしましょう。
また、写真のように地面の片側が下に向かって落ち込んでいる場所もあります。地面が平行ではないということは、バランスを崩すと横ざまに倒れ、転倒から滑落(かつらく)になりやすい場所ということです。
滑落とは、転落地点で止まらずに、ゴロゴロ、あるいはズザーッと滑り落ちていくことを言います。高いところから長い距離を岩にぶつかりながら転げ落ちるので、大きな怪我につながります。
8合目までの岩場に注意
富士宮ルートを下る以外に、御殿場ルートを使って富士宮口五合目に下ることも出来ます。但し、途中で分岐を見逃すと御殿場口新五合目まで降りることになります。途中で気づいても大砂走りを登り返すのは、登頂を果たして疲れた身体ではとても苦しいでしょう。分岐を見逃さないために、必ず地図を携帯しましょう。
御殿場口登山道を下る際は、ガイドロープに従って行けばさほど迷う心配はありません。しかし、富士宮口五合目へ降りたい場合は、下山道からの分岐をうっかり通り過ぎないように、慎重に降りる必要があります。
下山道に入ったら左側を歩こう
御殿場口七合目、『日の出館』の下で下山道が分岐しています。間違って登山道をそのまま下らないようにしましょう。ただし、御殿場口へ降りるのであれば、そのまま登山道を下っても支障ありません。
下山道に入ると砂利石と砂の道となりますが、ここはまだ『大砂走り』ではありません。夏の山は朝晩に雲が出やすく、写真のようにガスっている可能性が高いです(ガス=霧が出ること)。
霧が深いと分岐に気づかずに見逃してしまう恐れがあり、夜間であれば尚更分かりにくくなります。下山道の左側に分岐の目印となる道標がありますから、ガイドロープに従って下山道の左側を降りるといいでしょう。
分岐が出て来るまでの時間を予測しよう
写真のような『下り六合』の道標が見えたら、すぐに右への分岐が現れます。ここをスルーしてしまうと、道はドンドン下って、登り返すのがしんどくなります。
この道標を絶対に見逃さないように、コースタイムで時間を計りながら「そろそろ分岐かな」というところでペースを落とすといいでしょう。
最も新しい噴火口
宝永山と宝永火口は、富士山の見所のひとつです。わざわざ足を伸ばしても見るべき価値があります。
但し、宝永火口は大きく落ち窪んでいるので、火口両側の縁は急傾斜となっています。つまり、御殿場ルート側から降りてくると、宝永第一火口縁への登り返しが待っています。登頂して疲れた身体には多少キツイことになるでしょう。
逆に富士宮ルート側から来た場合は、体力に余裕がないのであれば宝永第一火口縁の上から火口を覗き込むだけに止めておきましょう。
マスク必須
見逃しやすいけど見逃せない
さて、第一火口縁まで来ると、そのまま6合目へ戻る人も多いものと思います。ですが、あえてここで第二火口縁まで下りてみましょう。
ここから見上げる宝永山も、スケール感、高度感が見事です。
登り返すのは大変
但し、第二火口縁まで下りると、第一火口縁への登り坂は滑りやすく急傾斜なために、ここを登り返すのは一苦労です。
むしろ、富士宮口五合目駐車場の東側にバイパスする道を通った方がいいでしょう。この道は森林を抜けるので、西日など強い陽射しが遮られて長い登山の最後の疲れを緩和してくれることでしょう。