5月といえば、平地ではうららかな春の陽気でしょう。ですが、富士山はまだ春には程遠い「氷の滑り台」です。
この時期に登れるのは、冬山の経験を多く積んだ上級者だけなのですが、雪山を登るための装備も持たず無謀にもジーンズとスニーカーで挑戦した登山者が、たまたま居合わせた他の登山者に救助されたようです。この人に限っては、実際にはまだ遭難していないため、遭難未満、遭難未遂ですが、たった一度でも足を滑らせてしまえば、何百mも斜面を滑り落ち、岩に激しくぶつかって命を失うことになっていたでしょう。
これは決して脅しや、大げさに表現しているのではありません。実際に、この遭難者と一緒に登っていて途中で分かれた別の登山者は、人知れず滑落したのか行方不明になり、6月11日に遺体となって発見されているのですから・・・
その根拠のない自信はどこから来るの?
特に注目して欲しいのが、この登山者は最初、救助の申し出を拒否していることです。曰く、「私は大丈夫」と・・・
私は夏山の経験しかありませんが、このようなことはよく見かけます。例えば、ライトも持たずに日が暮れて真っ暗な山で途方にくれている人。そのような状況であるにも係わらず、「大丈夫ですか?下山に付き添いましょうか?」というこちらの申し出を、やんわりと断られるという体験を、私も何度かしています。
虚勢を張るな!素直になれ!
本人は、その状況がどれだけ危険か、全く理解していないのです。これは、飲酒運転などにみられる「根拠の無い自信」とでも言うべき傾向と同じなのではないでしょうか。結局は、事故を起こしてから後悔するのでしょうが、後の祭りです。
みなさんは、これを教訓に、きちんとした準備と装備を整え、それでも状況が悪化したら、虚勢を張らずに素直に人の助けを受け入れるべきです。世間では、遭難者や遭難者予備軍を叩く傾向にありますが、そんな人の目を気にするよりも、あなたの命を大切にしてください。すべては、命あってこそです。
一緒に救助活動をされた、お二人。