富士山剣ヶ峰とお鉢巡り
富士山の山頂について。
富士山の山頂について。
さぁ、登山道を登りきって富士山の山頂に着きました。ここがその日本最高地点でしょうか?
いいえ、実はまだ最高地点ではありません。
富士山の山頂には大きな旧噴火口があり、この噴火口をぐるりと一周して火口壁があります。この火口壁の上を登山道が通っており、この火口を一周することを『お鉢巡り(おはちめぐり)』と呼びます。
その火口外周壁の最も高いところが、日本の最高地点『剣ヶ峰(けんがみね)』となります。
このサイトでは、火口の外周に位置する各登山道の終点を「富士山山頂」としており、これは一般的にもそう呼ばれています。
登頂の疲労や時間的な余裕の無さからか、意外に行われていないのがお鉢巡りと、富士山の最高地点である剣ヶ峰への登頂だそうです。私からすると勿体無い限りです。
富士山の火口こそ苦労して登って来て、さらにもう少しの苦労で見られる、それだけの苦労をしても見る価値のある風景だと思います(但し、強風時、残雪が多いときなどは中止の決断も必要)。
もちろん、登山道終点である登頂地点付近からも火口は見られますが、山頂の一地点から火口全体を一望するのは難しく、火口を取り囲む火口壁も含めて見る方向によっても景色は違って見えます。であるからこそ、お鉢巡りで火口の周囲を巡って様々な表情を見比べることも富士登山の醍醐味のひとつとなっているのです。何より、自分の足で火口の周囲を歩くことで火口の大きさ、ひいては富士山のスケールの大きさが実感出来る事でしょう。
お鉢巡り | |
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(水平)距離 | 2.4km(外周コース) |
標準コースタイム 右回り | 1時間37分 |
左回り | 1時間37分 |
最大標高差 | 70m |
※距離と最大標高差は地理院地図を使用し管理人が計測。但し、切れのいいところである等高線上を起点終点とした。 |
噴火口を見ずして富士山を語るなかれ
富士登山のクライマックスは、なんと言っても巨大な旧噴火口にあるでしょう。この大噴火口こそ、紛れも無く富士山に登らなければ見られないものの筆頭格であると言えます。
この山頂の火口は、現在では噴気をあげるようなことはありませんが、それでも往時の迫力を感じさせてくれます。「富士山は見るだけの山で、登る山ではない」という人は、残念ながらこの噴火口も見たことがないのでしょう。
大内院
富士山の火口の底は大内院(だいないいん)と呼ばれ、深さは8合目にまで達するほどだそうです。大内院は幽宮とも称され、富士浅間大社により禁足地(足を踏み入れてはいけない聖域)とされています。
火口 | |
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最深部標高 | 3,538.7m |
深さ | 237.42m |
直径 (剣ヶ峯~久須志神社間) | 780m |
平均傾斜角* (大内院から剣ヶ峰) | 28.4°(勾配53.3%) |
※傾斜角・勾配は地理院地図を使用し管理人が計測、計算。但し、切れのいいところである等高線上を起点終点とした。*水平距離と標高差から割り出した計算上の値。火口の最大傾斜角度ではないことに注意。 |
それでは、お鉢巡りの一周を、吉田口・須走口の山頂を基点に、右回りに紹介しましょう。
吉田口・須走口ルートの登山道を登りきった正面が久須志神社となります。この場所は、やっとの思いで山頂に辿り着いた登山者が、思い思いに休んでいるのを多く見かけます。しかし、登山者が多い時間帯はとても混み合う場所なので、記念撮影を終えたら速やかに移動し、長く立ち止まらないようにしてください。
山頂銀座
日本には、いたるところに「銀座」の名称がついた場所がありますが、富士山の山頂も例外ではありません。吉田・須走口側の山頂にある山小屋前の通りがそのように呼ばれることがあります。特に、夜明け前には御来光を求めて足の踏み場もないほどです。
共同トイレの建物を過ぎた先の左側に下山道があります。富士山の吉田・須走ルートは登山道とは別に下山道があり、山頂で道が別れているので、間違えて登山道を降りないように注意してください。
また、お鉢巡りは、石柱を右に回りこんだ先になるので、間違えて下山道へ入らないようにしましょう。
成就岳(旧大日岳):3,735m
吉田・須走ルート下山道入口から見えるなだらかな丘が成就岳(じょうじゅだけ)です。近年まで大日岳と呼ばれていましたが、富士山本宮浅間大社によると正しくは成就岳のようです。詳しくは、以下のミニコラムで説明します。
夜明け前には御来光を求める人でごった返します。
成就岳から直接下りないで
お鉢巡りのコースは、成就岳の左下を通過します。成就岳山頂から直接下りようとすると落石を起こしやすく、下の登山道を歩いている人に怪我をさせる恐れがあります。面倒でも、須走口下山道の石柱近くまで戻りましょう。
朝日岳:3,733m
朝日岳の手前に、『荒巻(あらまき)』と呼ばれるコル(鞍部=あんぶ)があります。ここは風の通り道となっていて、火口からコルを越えて強い風が吹き抜けます。
道の右側に見える石垣は、恐らく風を遮るために築かれたものでしょう。強風時は身体を低くして、それでも煽られるようでしたら、石垣の陰を四つん這いで通過してください。もちろん、危険だと思ったら素直に引き返す判断も必要です。
東安河原
東安河原 (右から剣ヶ峰・三島岳)
朝日岳の山頂はなだらかで、南側は東安河原(ひがしやすのかわら:東賽ノ河原)と呼ばれています。剣ヶ峰に移設するまでは、ここに中央気象台富士山頂観測所が設置されていました。やはり風が強いときは危険なので、火口の縁と左側の崖は避けて出来るだけ真ん中を通りましょう。
駒ヶ岳:3,722m
駒ヶ岳は、富士宮ルート山頂のすぐ脇にあります。山というより、溶岩の塊という感じです。先は崖となっているので、落ちないように注意してください。特に、夜間は危険です。
公衆トイレを通り過ぎて50mほど先へ進むと、三島岳の峰を左に回りこむ手前の斜面に白い踏み跡が見つかるので、そこから登ることが出来ます。奥は崖になっていてガイドロープも柵も無いので、特に夜間は落ちないように気をつけてください。
三島岳を横に過ぎて進むと、段々と正面に立つ尾根が間近に迫って来ます。近づけば近づくほど高さが際立つ、そここそ日本最高峰富士山の山頂、『剣ヶ峰(けんがみね)』です。
剣ヶ峰に到達する前に、最後の難所として立ちはだかるのが、『馬の背』です。馬の背は、その名の通り峰の左右両側が切れ落ちて崖のようになっていますが、登山路のある斜面自体がとても急傾斜で、尚且つ固い岩盤の上に砂が載った、とても滑りやすい斜面です。左側の鉄柵に近いところが登りやすいです。中央から右側は、砂が載った一枚岩となっているので、とても滑りやすいです。
剣ヶ峰 | |
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標高 | 3,776.12m |
剣ヶ峰馬の背 | |
終点標高 | 3,770m |
起点標高 | 3,730m |
標高差 | 40m |
距離 | 105m |
勾配 | 41.2% |
平均傾斜角度 | 22.2° |
※距離・勾配・傾斜角は地理院地図を使用し管理人が計測、計算。但し、切れのいいところである等高線上を起点終点とした。 |
馬の背下りで転倒者続出
お鉢を一周せずに、剣ヶ峰で引き返す方は、馬の背の下りに注意してください。大げさでなく、転倒者が続出する難所です。
下るときも登りと一緒で、小股(短いステップ)、ほんの少し前傾、やや小走りで駆け下りるのが比較的安全です。反射神経に自信の無い方は鉄柵を頼りに降りるしかありませんが、人の多い時間帯だと、登りの人と交錯して、時間も掛かります。また、転んでも怪我しないように、長袖、手袋で備えましょう。
荷物をデポする裏技
登る前に荷物(ザック)を馬の背の下にデポ(depot=一時的に置いて)して空身で登るとより楽になります。盗難が心配な方は、家族など複数人で登っているのであればグループを二つに分け、片方を荷物の見張り番として残しておいて交互に登頂するといいでしょう。但し、時間に充分な余裕のあることが前提です。
剣ヶ峰の下から西回りに道を下ると、西安河原(にしやすのかわら:西賽ノ河原)へ出ます。この辺りは、登山シーズンに入っても雪が融け残っている場合が多いです。登山道が完全に残雪に覆われているようだったら、通行は避けた方が無難です。
西安河原
西安河原 (右下)
以前は西安河原に、環境庁(当時)の『富士山頂地区管理舎』と、東京大学大学院による『サブミリ波電波望遠鏡』が設置されていました。
サブミリ波というのは、0.1~1mmの波長の電磁波で、地球大気の水蒸気に吸収されてしまうために、観測が非常に困難なのだそうです。観測のためには標高が高く乾燥している場所に電波望遠鏡を設置しなければならず、日本で条件を満たすのが、唯一、冬期の富士山山頂ということで西安河原が選定されたのだとか。1998年から続けられた観測は、落雷による施設の被害を原因として中止され、2005年に閉鎖されました。
富士山山頂から夕陽を見る
富士山を西側から登る登山道は無いので、夕陽を眺める最高のポイントは、山頂の大沢崩れ上部からとなります。但し、夕陽が落ちきってしまうと安全に下山出来る保証はありません。夕陽を目的とするのであれば、山頂の山小屋に予約を取り、完全に暗闇が訪れる前の薄暮の間に戻るようにしましょう。
日の入りからの時間的な余裕は、約30分です。いずれにしても、必ずヘッドランプは携帯してください。
大沢崩れ上部を過ぎると、吹き曝しの細い尾根に出ます。この尾根は、写真で見ても分かるように、強風が吹いたら簡単に吹き飛ばされて、崖下に真っ逆さまです。体が煽られるほどの風が吹いているときは、素直に引き返しましょう。
一番上の写真のように見た目で45°ぐらいあると、実際には60°ぐらいに感じる急傾斜です。転がり落ちたら、50mや100mでは止まらずに岩に激突してお陀仏です。
この細い尾根はほぼ平坦な道ですが、先へ進むと尾根が登りになります。しかし、登りの道は現在では使われておらず、右下へと下る道が正解です。濃い霧が出ていると間違いやすいので気をつけてください。
白山岳:3,756m
小内院の前で、道は二つに別れます。ひとつは降って金明水へ回り道します。もうひとつは、白山岳の足元を回り込むようにして久須志岳へ向かいます。
二つの道は先でまた合流しますし距離の違いもあまり無いですが、金明水から主ルートへ復帰するのに急な登りとなるので、多くの人は金明水をスルーしてしまうようです。
久須志岳:3,725m
金明水からの道と合流した主ルートは、少し登りながら久須志岳の脇を抜けて吉田口・須走口山頂へと出ます。久須志岳は平坦なピークなので見逃してしまいがちですが、この山頂から見る火口が一番安全に底まで見通せるような気がします。
なぜ埋められているのか
また、山頂の写真をよく見ると、何か赤い物体が岩に埋もれているのが見えます。写真を見返すまで存在に気がつきませんでしたが、恐らく祠の屋根だと思います。なぜ埋められているのか、調べて何か分かったらお知らせしたいと思います。