富士山 御殿場ルート
雄大な景色を登り、大砂走りで下るルート。
雄大な景色を登り、大砂走りで下るルート。
日本とは思えない景色
御殿場ルートは、富士山を南東斜面から登る登山道で、5合目から富士山を登るルートとしては最も長い距離があります。登山口の標高も低いので、体力が無いと日帰りはとても厳しいです。しかし、それによって日本とは思えないようなスケールの大きい雄大な景色が堪能出来るとも言えます。
御殿場ルートの難所
兎に角、5合目から7合目までの距離が長く、途中で山小屋もトイレも無いのが難所と言うか、難点です。その一方で、岩場などの危険箇所は少なく、比較的安全なルートと言えるでしょう。但し、快晴のときは、山小屋や日陰などの逃げ場が無いので、熱中症や脱水症状には注意が必要です。
大砂走り
下山には、7合目から下で『大砂走り』と呼ばれる、砂が厚く堆積した道を下ります。岩場などに比べて膝への負担が和らげられるので、他のルートから登って、下山時だけ御殿場ルートを利用する人も多く居ます。
登山ルート | |||
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標高 | 山頂3,706m 5合目1,440m | 標準コースタイム | 登り8時間20分 下り3時間30分 |
標高差 | +2,266m | コースタイム実例 | 登り時間分 下り時間分 |
距離 | 登り10.5km 下り? | ||
交通 | |||
バス | 登山バス1路線 | アクセス道路 | 富士山スカイライン太郎坊線 |
最寄り駅 |
| 通行料 | 無料 |
最寄バス停 | 『御殿場口新五合目』バス停 | 駐車料/収容台数 | 無料/500台 |
※標準コースタイムは昭文社発行の『山と高原地図 富士山 御坂・愛鷹』2012年版から引用。基準として①40~50歳の登山経験者②2~5名のパーティ③山小屋利用を前提とした装備(テントを持たず比較的軽量という意味)④夏山の晴天時としています。※食事やトイレなどの休憩(大休止)を含まない正味の時間であり、休憩等を含む実際の登山ではさらに時間が掛かりますので、計画を立てる際には注意が必要です。 ※このサイトにおける「山頂」とは各登山道の終点、つまりお鉢巡りコースとの合流地点とし、最高地点「剣ヶ峰」とは分けて表記しています。各登山道終点の標高は、こちら(静岡県/県道富士公園太郎坊線標高日本一)を参考にしています。 |
必ず山小屋を予約しておこう
バス利用での日帰りは、事実上不可能です。マイカー規制が唯一行われないルートなので、マイカー登山には向いていると言えますが、それでも日帰りは時間的にギリギリです。初心者は、迷わず山小屋泊を前提に計画を立ててください。登山者は少ないですが、その分山小屋も少なく、収容出来る人数に限りがあるのは他のルートと同じです。空いているからと油断せず、必ず予約を入れた上で登山を開始しましょう。
登山道の渋滞が夜明け前でもほとんど無いので、御来光登山には最適なルートです。また、6合目から下では、ずっと平らな地面を歩くので、満月に近い夜であれば安全に月明かりの登山を楽しめます。
宝永山への寄り道も、高度差が少なく楽に往復出来るので、忘れずに見ておきたいオススメのポイントです。
一般的に初心者向けではないと紹介されることが多い御殿場ルートですが、距離が長いだけで意外と登ることに難しさはありません。但し、初心者に日帰りは無理なので、山小屋に宿泊することが前提となります。
逆に、下山は楽なルートと思われていますが、深い砂に足をうずめながら長い距離を歩くのは、体力的、身体的な負担も相当なものです。走り降りる人も居ますが、あまりはしゃぎ過ぎると足を取られて捻挫など思わぬ怪我にもつながります。下山のときこそ、自分をコントロールすることが求められます。
大石茶屋まで
5合目から15分ほど登ると、大石茶屋に到着です。ここまでの道は砂で滑りやすいですが、傾斜はまだまだ序の口なので、ゆっくり歩けば大して問題にはならないでしょう。むしろ、この程度でゼェハァ言っているようでは、この先が心配になります。
砂の殿堂
御殿場ルートは、6合目までとにかく砂砂砂です。下山道は右に見えていますが、登山道は砂が払い除けられているので歩きやすくなっています。
初めのころは体力があるので、ついつい急ぎ足になりがちです。他の登山者に追い抜かれると、「負けてられない」とペースアップしたくなるのも分かりますが、まだまだ先は長いのですから、体力を温存することが大事です。マラソンを100m走のスピードで走る人は居ないですよね。歩幅を靴一足分に抑え、ゆっくりゆっくり登って行きましょう。
次郎坊で道を間違える人多数
何度も左右に折れながら、徐々に高度を上げていきます。最初の分岐となる次郎坊にジリジリと近づいて行きますが、すぐそこに見えているのに中々辿り着かないのがもどかしく感じるでしょう。でも、焦ることはありません。ゆっくりでも、確実に近づいているのですから。
やがて、ブルドーザーの通る道(ブル道)と交差します。昼間なら間違えることはないですが、夜に登ると視界が狭いので、通行禁止の標識に気がつかずに間違えて登ってしまう人が居ます。それは、ブル道の次に出てくる下山道との交差地点でも同じです。
実際に、私が2013年に御殿場ルートを登山したときには、夜になって下山道を間違えて登ってくる人が大勢居ました。急傾斜を一直線に降下する大砂走りを逆行するのと、九十九折(つづらおれ)で登っていく登山道では、体力の消耗度が大きく違います。夜間に登る人は、充分注意してください。
次郎坊を越えたところから、傾斜がキツクなって来ます。地面の砂も払い除けられていないので、街中で歩くように後ろ足を蹴るような歩き方をすると、ズルズルと足が滑って体力を消耗します。足は優しくそっと「置いていく」ような感じで、歩幅も靴一足分のペースを守りましょう。この歩き方さえ出来れば、初心者でも十分に登頂出来ます。逆に言えば、ここで体力に任せて雑な歩き方をしていると、登頂は難しいでしょう。
この辺りで、ようやく2,000mです。須走口五合目と同じぐらいの標高ですね。
旧二合八勺中継小屋
やがて、このような大自然に不釣合いの、コンクリートで出来た白い建物が視界に入って来ます。これが、旧二合八勺の中継小屋です。これは、気象庁が山頂で行っていた観測所に登る観測員が、冬期に登るときの中継地点として利用したものです。今では山頂での有人観測は行われていませんので、廃墟のようになっています(※2013年に取り壊されたとの情報あり)。
この中継小屋は、実際には下山道の向こうにあるのですが、トラバース(横断)の道があるので下山道までエスケープすることが出来ます。
新六合目山小屋(休業中)
さらに登って行くと、6合目に到着です。石柱には、5合目とありますが・・・
青いトタンの建物は、今は休業している6合目小屋です。ここも見晴らしがいいので、お昼休憩に最適です。
ブル道交差点
またブル道との交差点が出て来ました。「またかよ」と思うでしょうが、ここが一番間違いやすいです。写真の中央下から右へブル道が伸びていますが、その左側にブル道に沿うようにガイドロープが張られているのが分かりますか?これに気がつかないと、深い砂でズルズルのブル道を7合目まで登らされることになります。
御殿場口六合目
やがて厚く堆積していた砂も徐々に少なくなり、平らだった斜面も起伏が大きく見通しが悪くなってくると、そろそろ御殿場口六合目に到着です。
え?
「1時間も前に、新六合目を通過したじゃないか」って?
それが富士山マジックです(笑)富士山の合目表記は、時代と共に移り変わっていくので、惑わされてはいけません。
これまでと様相が一変
6合目から先は、これまでに比べるとハイキングのように楽になります。ですが、斜面の上には大きな岩がゴロゴロしています。落石には十分注意してください。
「落石なんてどうやって注意すればいいんだよ」という方は、おしゃべりに夢中にならずに、耳に意識を集中しましょう。但し、残雪が残っている時期ですと、落石は雪の上を音も立てずに転がって来ます。足元ばかりに目をやらず、視線をあげて歩くことを心がけてください。
七合目下山道分岐
岩場の上に建物が見えてくると、いよいよ7合目に到着です。日の出館の直下に下山道への分岐があります。下山道は下っていますから登山道と間違えることはありませんが、帰りのときのために、少し上から振り返ってこの場所をよく覚えておいてください。
7合目に入ると、短い間隔で山小屋が連なっています。ようやく、ほっと一息つける場所まで登って来たという実感がわくことでしょう。
空気が薄くなって来た
6合目からと同じ道ですが、標高が上がった分だけ空気が薄くなっていることをお忘れなく。
頭痛や疲労を感じたら、ペースオーバーです。サカサカ歩いて休憩、サカサカ歩いて休憩、ではなく、疲労を感じないぐらいにペースを落とすのが正解です。結果的に、その方が無駄に長い休憩が減って早く山頂へ着けます。
長田尾根の歴史
8合目を越えると、登山道の上に長田(おさだ)尾根登山路建設の記念碑が建っています。長田尾根は、富士山測候所観測員の長田輝雄さんに因んで名付けられたもののようです。
長田尾根登山路というのは、夏の登山者が登るルートではありません。かつて、山頂にある気象庁の測候所で有人観測が行われていたころ、冬期に観測員が交替などで登るために鉄柵が設置されました。富士山の冬は強風とアイスバーンの斜面で滑落事故が絶えなかったために、その鉄柵に掴まって安全を確保していたのです。
その鉄柵は、有人観測の終了後もしばらくは残されていたようですが、遭難事故を誘発した可能性があるということからか、今では撤去されています。今でも剣ヶ峰に残る鉄柵は、長田尾根から一続きになっていたようです。
鉄柵は撤去されて、記念碑だけが残ったわけですが、その鉄柵は記念碑のすぐ右側を通っていました(リンク先画像参照)。富士山には、有史以来様々な登山者の歴史が刻まれています。これもそのひとつということですね。
落石注意
8合目から上で気をつけるべきは、落石です。写真のように、登山道の上には大小多くの岩が連なり、いつ崩れて来てもおかしくありません。
一方で、登山道自体の傾斜は他のルートに比べても緩やかで、足元はガレてはいるものの大きな段差を越えるような場面もないので、ちゃんと段差の少ないステップを選びながら登れれば、8合目から上のルートとしては最も体力的に楽でしょう。
谷間を登る
山頂には、白木の鳥居が建っているのですが、下の方からは中々見えません。山頂への道が谷間を通っているためです。ですので、鳥居が目視出来るところまで来たら、山頂まであとわずかであると分かるでしょう。
御殿場口山頂
そして、鳥居に辿り着いたらそこが山頂です。御殿場ルートは、距離は長いですがその分登頂したときの達成感も大きいでしょう。登山初心者の方は、いきなり御殿場ルートに挑むのではなく、まず他の山で経験を積んで、あるいは富士山の他のルートを登るなりしてから挑戦してみるのがいいかも知れません。それだけの登る価値があるルートだと思います。
登る時間は他のルートの1.5倍はある御殿場ルートですが、下山に掛かる時間は他のルートと同じぐらいです。これは、吉田ルートなどの下山道が九十九折(つづらおれ)で下っていくのに対し、御殿場ルートの大砂走りは、ほぼ一直線に下っていくことによる違いです。
足の置き場所を見極めよう
登ってくるときはさほど意識しなかったと思いますが、御殿場ルートも上部では多くの石が地面に転がっています。これらの石は、「浮石(うきいし)」という、足で踏めば動いてしまうものです。足場としては使えないので、シッカリ足元を見て、避けて歩いてください。
大砂走り分岐
日の出館のすぐ下で、下山道への分岐となります。真っ直ぐ進めばいいので間違える人は少ないでしょうが、自分の現在位置は常に確認して、分岐も予め予測して行動することが大事です。
宝永山へ寄るなら標識を見逃さないように
下山道に入っても、すぐに大砂走りというわけではありません。厚く砂が堆積していますが、砂の中に大きな石が混じっています。あまり飛ばすと石を踏んで転倒しますので、油断しないように。
しばらく下りると、下り六合の標識と共に、宝永山分岐が右に出て来ます。宝永山へ寄り道する人は、見逃さないようにしましょう。ここは、霧が出ていると標識も見逃しやすいので、標識のある左側のガイドロープに沿って歩くといいでしょう。
晴れていれば最高の景色
徐々に岩が混じらなくなってくれば、いよいよ大砂走りです。ここは豪快に駆け下ることも出来ますが、長い距離をずっと走って降りるのはオススメしません。砂がクッションになって膝への負担は少ないですが、足首まで埋まる砂に足を取られて捻挫などの恐れもあるからです。
むしろ、晴れていたら下界の景色を堪能してください。下に見える双子山や遠くに霞む山並みなど、見ていて飽きることがありません。
5合目上の大石茶屋に着いたら、カキ氷でも食べながら、富士登山の思い出を振り返るもいいでしょう。ご苦労様でした。