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LastUpdate 2016/04/28

須走ルート登山レポート

登山日
天候曇り時々晴れ
投稿者富士さんぽ管理人 37歳 男
人数単独
プラン日中日帰り
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富士さんぽ管理人による、須走口旧馬返~グランドキャニオン~小富士~須走口五合目~富士山山頂の登山レポート。

富士山は、5合目より下が楽しいね

すでに今年の初冠雪がニュースになってからちょうど一ヵ月後。前回辿り着けなかったグランドキャニオンに再挑戦してきました。

最初に書いておきますが、このルートを5合目まで行くのであれば、ハイキングレベルとは言えません。というのも、登山道が一部崩落しており、1mほどの高さで崩れた箇所をロープを頼りに通過しなければなりません(管理人登山時点)。特に下山のみに初見でこのルートを使おうとすると、正しい下山道を辿るのはほぼ不可能です。
また、グランドキャニオンで引き返すにしても、どこからどう通って来たのか、ちゃんと覚えておかないと帰り道を見失う恐れがあります。登山地図とコンパスは必携であることを申し添えておきます。

8:04須走口旧馬返し1合目15℃

前回は、グランドキャニオン入口に原付バイクを停めたが、今回は旧馬返(きゅううまがえし)の道路脇に停める。旧馬返バス停そばには廃屋?があり、その手前の道は立ち入り禁止のロープで塞がれている。
いけないと知りつつも、こっそりその道に入ってみるが、道らしい道はなく、すぐに車道に戻るしかなくなる。車道を進み、グランドキャニオン入口の目印となる石柱が立つ場所へ来るが、森へ入る道は二股に別れていて、手前の方はやはりロープで塞がれ、立ち入り禁止となっている。こちらは試さずに、ハッキリした登山道と分かる道を進むが、この道はそのまま進むとまた車道に合流する。

グランドキャニオンに行くには、この登山道の外に踏み出さねばならないのだ。これが、このルートを初心者に薦めづらい所以である。
普段、整備された登山道しか歩いたことがないと、道なき道を進むことに不安を感じるのは当然だ。であればこそ、地図とコンパスを持って、慎重に進んで欲しい。ある意味、このような体験は貴重だ。本来、登山をする人は、このような体験を一度はしておくべきだとさえ言える。そうすれば、もし今後道迷い遭難の状況に陥っても、冷静に対処出来るはずだから。

さて、ではグランドキャニオン入口から登山道を進み、どこで道を外れるか。それを教えてくれるのが、適度な間隔をもって枝に巻きつけられている赤テープだ。「赤」とは言うが、最近は「蛍光ピンク」が使われていることが多い。このテープも、誰がどこに行く目的でつけたのかは分からず、必ずしも信用し過ぎると危険だが、自分の目的地の方向がちゃんと理解できているのなら道案内として利用することが出来る。

この場合は、グランドキャニオン入口から、わずか数分歩いたところで右を向くと木の間に赤テープが見える。その先にも赤テープ。奥の赤テープは、水の流れていない枯れた沢の中にある。この赤テープのあるところは、枯れ沢が浅いところになっているので、沢を越えるにも、沢に入って沢道を遡るにも好都合ということで、ここに赤テープが付けられているのだろう。
実際に、この位置から枯れ沢の上流を見ると、別の赤テープが見える。その赤テープに従って進むと、前回通った、車道に近い道を登ることになる。しかし、今回はグランドキャニオンへ行きたいので、この沢を横切って先に進むことにする。が、この先には赤テープは見えない。この辺りは、現在地と目的地の方向を見極めて、『カン』で進むことになる。まぁ、この場合は目的の方向にグランドキャニオンの谷が上流から下流へ横切っているはずなので、多少左右へずれても必ず谷に出くわすはずで、さほど難しくはない。ほどなく、ロープを張られた崖の上に出た。

ロープを支える白杭には、『富士学校』の文字が。しかし、そこは谷への降り口ではなかった。ここからは降り口が上流にあるか下流にあるかは分からない。とりあえず、下流である右手に進むと、写真の場所に出た。
ここのロープには、「東富士演習場関係者以外立入禁止」とある。
はい、立ち入り禁止です。念を押しておくが、この先は立ち入り禁止であるから入ってはいけない。しかしグランドキャニオンは、この先にある。

ちなみに、『山と高原地図』にはグランドキャニオンへ降りる二つのルートが描かれている。上の降り口は、前回断念した崩落箇所である。今回は下側の降り口で、道はなだらか。雨に濡れているとかでなければ、特に危険はない。しかし、このとき既にある失敗を犯していることに、自分は気づいていなかった・・・

『グランド・キャニオン』言うまでもなく、アメリカ合衆国アリゾナ州にある、大峡谷である。本物は見たことないが、この『ミニ』グランドキャニオンも、また一見の価値がある。
例によって、あえて写真は載せない。ぜひ、自分の目でこの光景を見て欲しい。

本物のグランド・キャニオンと同じように積み重なった地層が見られるが、ここでは富士山が噴火した際に噴出したスコリア(火山礫)によるものである。パッと見には固い石であるかのように思えるが、近づいてみると、細かい粒状にまとまったスコリアが寄り集まったものだというのが分かる。だから触ると簡単にボロボロと崩れるので、折角の景観を壊さないように注意して欲しい。

わざわざ壁を崩さなくても、壁の下に剥がれ落ちたスコリアが積もっている。手に取ってみると、とても軽い。
これが、何十mも積もるのだから、一度噴火が起こればいかに大きな災害になるかが想像できよう。しかし、殺風景なこの谷にも、ふじあざみがそこかしこに咲いている。この生命力、すばらしい。


グランドキャニオン
(マウスオンで表示)

スコリアの壁を右に見ながら先へ進むと、いよいよグランドキャニオンへ。本家グランドキャニオンのスケールには及ばないのだろうが、それでも息を呑む景色である。

下の青いのは、管理人のザック。少しはスケールの大きさの参考になるだろうか。

このグランドキャニオンの谷は、意外と長く続いている。小富士への登り口までは10分以上歩くが、少しずつカーブしながら伸びているので景色に変化があり、楽しみながら歩ける。

その小富士への登り口。これが実に分かりにくかった。谷間を進むと、やがて谷が二股に分かれているところに至る。しかし、右の谷は倒木で埋まっている。左の谷は開けているが、上空にロープが張られている。このロープは、人の目線のはるか上に張られているので、気をつけていないと見逃すだろう。本来、このロープには『立入禁止』の標識が掲げてあったようだが、すでに落下して地面に横たわっていた。
この場所の左手は、『山と高原地図』ではグランドキャニオンの上部側降り口だが、前回来たとき既に斜面が崩落して下るのも登り返すのも不可能になっている。

このロープをくぐって先に行くと、谷は狭まり、スコリアの堆積した地面が幾重にも段差となって行く手を阻む。無理に進めないことはないが、ザラザラと崩れる足元に体力を消耗させられ、このまま進むことは無意味であることを無言で告げてくる。
この狭い谷は、左は木々が辛うじてへばりつくように生えた崖。右はスコリアが数十mの高さで急傾斜の斜面となっている。上部には大きな岩が不安定に引っかかり、今にも落ちてきそうである。

ちょっと危険ではあるが、正しいルートはこの崖の上を通るので、下から見上げておくと上を通ったときの感じ方が違うだろう。もちろん、時間と体力に余裕があればの話で、崖の上が見えるところまで10分もかからないが、あまり進み過ぎないように。

9:33グランドキャニオン 白いペンキの矢印

ロープの場所まで戻って来たが、どこから登ればいいのか、見当もつかない。二股のもう一方の谷をのぞいてみたが、倒木が折れ重なり、とても登れそうにない。まずは地図にある、『白い矢印が書かれた石』を探すと、倒木で塞がれた谷の入口にあるのを見つけた。が、・・・「ん~」、谷と谷の間の斜面を登るのか?下から見ても斜面の上に登山道らしき様子が見えない。しかし、他に道もなく、途中まで登ってみることにした。少し登るが、正面は樹木に遮られて直登出来ない。右手は倒木の谷で登れそうもなく、左手に斜面をトラバース(横断)すると、上からロープが垂れているのを発見。

「あっ、こんなところにあったのね」という感じ。これは、わざわざここまでトラバースして来ないでも、下までロープが伸びている。谷の上空を横切るロープの下をくぐって、すぐに右を向けば難なく見つかっていたことだろう。だが、事前に情報を得ていないと、登り口ひとつでもこれだけ探し回ることになるのだ。

このロープも、上では細い木に結んであるだけである。決して体重をかけてはいけない。滑りやすい急斜面だが、上体を起こして、腕の力でロープを引くのではなく足で登ること。ロープは飽くまでも、起こした上体のバランスを取る為だけに使わないと、木を引き倒して元も子もなくなるだろう。

なんとか斜面を登るが、少し進むと斜面が崩落している。高さは1mほど、長さは3~4mぐらい。ロープは渡してあるが、これはおそらく崩落前から張られていたガイドロープで、崩落した箇所を渡るために設置されたのではない様子。やはり、あまり体重を掛けないように慎重に通過すること。この下は、倒木だらけの谷である。
ここを過ぎると、道はやや不明瞭になっている。イメージとしては、先ほど下から見上げた崖の上辺に沿って登って行くのだが、少し奥に進んだ方が安全ではある。だが、道らしい道はなく倒木も多いので、あまり奥に進み過ぎて道に迷わないように。あくまでグランドキャニオンから続く崖の上を目指そう。

やがて、道は急に疎林の中に出る。何か、ここまでとは別世界のように平和な景色。足元もなだらかで歩きやすい。
木と木の間が適度に開いているので、日差しが入り込んで明るい林になっている。

道沿いの木では、小鳥が盛んに飛び回っている。後で調べたところ、コガラだと知った。

実は、このルートのハイライトのひとつは、この先にある。この道を登り詰めると崖の端へと出るのだが、この景色がまたなんとも。
急傾斜でありながら、スコリアの細かい粒子によって滑らかなラインを描いた斜面をはるか下まで見下ろす高度感。このルートは登山者を飽きさせることがない。

やがて、崖を離れてまた森の中へ入って行く。それほど深い森ではないが、踏み跡が分かりにくい。また、ここではこの登山で初めて人に出会った。といっても、登山者ではなく、きのこ獲りに来ている人たちであった。

やがて森を抜けると、またも場面は一気に展開する。今度は森林限界を越え、大小の石が散らばるザレた斜面である。私は最初、ここまで来たら小富士まであとわずかだろうと思った。しかし、さにあらず。ここからが長い。延々と登る。嫌になるほど登る。しかも霧が出てきて先が見えにくくなるから、「あそこがピークかな?」と思って登ると、その先はまだずっと続いているというのを何度か繰り返す。これは疲れる。覚悟して臨むように。

なお、管理人は、ここでも少しルートを外した。下の森を出ると、森とザレ場の境界線や境界線の上に何本か、トラバースするように道がついているかに見える。だが、これが落とし穴。この道は、どうもきのこ獲りの人がつけた道のようで、これを辿って行くと、ふじあざみラインの須走口五合目下あたりに出るのだろうか?

小富士に向かうには、森を出たら真っ直ぐ上に進むこと。ただし、森のどこから出てきたか、上の斜面のどこに登り詰めたかを周囲の景色でしっかり記憶しておくように。でないと、帰りにもこのルートを使うのであれば、うっかりすると道を見失う。もし下りで道に迷ったら、5合目に登り返して車道を使って降りるしか他にない。無理に近道を行こうとして、ふじあざみラインの方へ進むと、深い森と、いくつかの枯れた沢に行く手を遮られる恐れがあるだろう(試してはいないが)。

ちなみに、この辺りには『毒キノコ』も生えているらしいので、知識のない人はむやみにきのこを持ち帰らない方がいい。
石だらけの斜面にも係わらず、ここにもふじあざみが根を張っている。標高が高いせいで、すでに花は枯れて種をつけた綿毛が風に舞っている。こうして新しい芽が徐々に広がり、ここもいずれは森に還るのだろう。いつのことになるか、私がその日を見ることはないのだろうが。

11:251906ピーク

やっとこさ、標高1906mのピークに辿り着く。といっても、小さな石積みと三角点があるだけだ。ここと小富士の間に、また小さな森があり、森を突っ切るとようやく小富士に辿り着く。

11:41小富士着

小富士については、前回も書いたので省略。
この日もあまり天気は良くなかったが、もしかしたら天気が良くてもあまり景色が楽しめる場所ではないかも知れない。むしろ、1906ピークの方が、眺望は楽しめそうな気がする。また天気のいい日に訪れたいと思っている。

12:12須走口五合目着8,433歩(旧馬返しから)

ここまで、4時間08分。標準コースタイムは2時間5分であり、倍の時間が掛かったということ。あえて時間を掛けている部分もあるが、登山ではコースタイムの倍の時間を費やすことも珍しくないということを、よく知っておいて貰いたい。
飲料水の消費は、ここまで400mlほど。

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凍りつく砂

13:10須走口五合目発

腹ごしらえし、菊屋ではおにぎりを買って出発。筋肉が冷えてしまったので、また最初はゆっくり、ではなく予定からかなり遅れているので、普段より少し早めのペースで登り始める。

なお、写真にあるように、この時期の登山道は通行止めです。

最初は石畳から階段を昇り、古御岳神社の前を通る。ここを通るのは四度目だが、いつも変わらぬこの道は、なんとなくホッとする。

やがて道は溶岩が冷えて固まったデコボコの道となる。極めて歩きにくく転んだら怪我をしそうだが、足場としては安定しており、不安定な浮石などはあまりないので足元に注意して歩けばさほどの危険は無い。

岩場ばかりかというとそうでもなく、時々土が顔を出す。このあたりはまだ森林限界を越えていないので、この時期は薄いながらも落ち葉の絨毯となる。

写真のナナカマドだけでなく、岳樺(だけかんば)など特徴的な樹木も見られる。

一方で、登山道の荒廃は年々進んでいるようだ。このような洗掘(せんくつ)は、登山者に踏まれて草が生えなくなり、土を保持する力と保水力を失った地面が雨水や雪解け水に削られてこうなってしまったものだ。本来の地面の高さは、両側の草木の生えている場所だったのだ。

草木のあるところには、鳥も飛んでくる。寒風の中、一羽佇む眼差しが何とも凛々しい。

14:18長田山荘

長田山荘を過ぎてくると、段々と樹木も少なくなってくる。急に、パーッと見晴らしがひらけるのが、いつも印象的だ。不思議と、最初からひらけたところを登っているときには感じないトキメキがある。

左側には下山道が見えてきた。夏のシーズン中であれば、砂煙をあげて駆け下りる人がたくさん見られるのだろうが、この時期には人っ子一人いない。5合目からここまででも、犬を連れた散歩の一組に出会っただけである。

道端には、ホソバトリカブトが咲いていたが、すでに枯れかけているようだ。

14:58瀬戸館

瀬戸館を過ぎると、須走ルートの8合目から下では唯一となる傾斜が急な岩場がある。といっても高さはさほどではないから、慎重に登れば大丈夫。

背の高い木はすでに消えて、人の背丈以下の低木ばかりとなる。すでに2,700mを超えているのだが、それでもまだこれだけ草木が生えていることには驚かされる。これは須走ルートだけの特徴で、他の登山道では5合目から早々にして荒涼たる風景が広がるばかりなのだ。

山小屋が廃墟になった跡を過ぎると、石碑が登山道脇にひっそりと建っている。これは、月待塔というものらしく、特定の月齢に集まって月の出に拝んだり故人を供養したり、願掛けをしたり、地方地方で様々な信仰に結び付けられていたという。
廿六夜(=二十六夜)というと三日月の反対側の月齢で、細い月となる。この石碑には、三名の翁(おきな)の名が刻まれているのが読み取れる。恐らくこれらの故人を供養を供養するために建てられたのだろう。二十六夜の月待は江戸時代に流行ったというが、この石碑はもう少し新しい時代のもののように見える。

路傍の石碑ひとつにも、その背景となる歴史と、それを建てた人たちの思いが込められているのだ。

15:55大陽館着6℃風速5m/sほど

大陽館は、まだ営業している。もう午後4時であるから、普通ならここで下山を考えるべきである。山小屋の人も「この先を行くのは危険」と忠告してくれた。
しかし、一応夜になっても山頂まで登れる装備、準備と心構えをして来ていたので、先に進むことに決めた。

~16:15トイレ休憩

この先に営業している山小屋はないので、トイレはここで済ませておいた。肌寒くなってきたので上にフリースを着込み、同じくフリースの手袋をして出発。

16:50見晴館着1℃

上部は、山頂までやや雲が掛かっているが荒れそうな天気ではない。道も、溶岩の凸凹と、写真のような平坦な砂の道が交互に出てくる。この辺りでは傾斜もキツクないので、下が砂でもズルズル滑ることはない。快調な登山が続く。

~17:03食事休憩

そろそろ日が傾いてきた。須走ルートは富士山の東斜面にあたるので、山体の陰になり日没は早い。日が沈む前に、食事を摂る。この食事というのも、体温を保つ上ではとても重要なのだ。

菊屋で買っておいたおにぎりを頬張る。たくあんの塩気がとてもうまい。エネルギーも補給出来て、登山再開。

17:54本八合目-3℃微風

すでに残照も消え、急激に温度が低下する。所々で風が吹き抜ける場所を通るため、雨具を防風のために着込む。ヘッドランプの灯りにはチラチラと光り輝くものがよぎる。雪・・・でもないようで、もちろん雨でもない。もしかしてダイヤモンドダスト?と思うが、周囲は真っ暗闇なのでよく分からない。

寒さは猛烈なはずだが、身体を動かしているとさほどには感じない。ただ黙々と足を動かすのみ。

18:27御来光館

何度も通った道だが、御来光館が最後の山小屋という意識から、もう山頂が近い気になってしまう。その気の緩みからか、ここからが非常に長く感じる。時折強風が吹きつける中、人の気配が皆無の夜の道を進む。

何のため?
それは自分でも分からない。

19:35山頂 -7℃風速10m/sほど7,253歩(5合目から)

5合目から、5時間52分で登頂。標準コースタイムが6時間55分であるから、まずまずのタイムだ。これは、休憩を取ると体が冷えるので、休まずに歩き続けたためだろう。本来は、ここでしばらく登頂の感慨に浸るのだが、山頂は風を遮る物も無く、ビュウビュウと強い風が吹いている。一考の余地も無く、即下山と決めた。

20:27本八合目

さて、ここからが想像以上に厳しい下山となった。

下りはもちろん下山道をとったのだが、足元は滑りやすい砂のはず。が、何か感じが違う。下は砂どころか、石の上を歩いているかのようだ。
なんと、あまりの低温で砂が凍り付いているのだ。これには軽い衝撃を受けた。おそらく急激な気温の低下で夜露が降り、結露した水分が砂と砂の間で凍りついたのだろう。平地では秋でも、富士山では真冬。その恐ろしさの一端を垣間見た、と言ったら大げさだろうか。

しかも、この凍った砂の道が滅法歩きにくい。想像以上に凸凹している上、所々で凍っていない砂の部分があるので、固い足場のつもりで足を出すと予想外のところで急に滑るのだ。
この下山道は何度も通っていて私は尻餅をついた記憶はないのだが、今回は2~3回足を滑らせて尻餅をついた。これはダメだと思い、9合目から道を変えて登山道を降りることにしたほどだ。

21:35大陽館

その後は岩場を下ったので足元は確かなのだが、それでも快調というわけにはいかず、砂走りに入るまでに何度も転倒した。これは凍結の影響によるものではないはずだが、疲れによるものか、低温によって体の動きがおかしくなったのか、今でも分からない。
一度などは、まともに横転した。幸い怪我はしなかったが、こんなまともにこけたのは、何年ぶりか。

砂走りに入ると砂が凍っている感じはなくなり、順調に高度を下げる。すると今度は別の驚くべきことが。
なんと、この時間にヘッドランプの灯りが登ってくる。ちょっとちょっと、ここは砂走り、下山道ですぜ。行き会ったときに少し話をしたが、どうやら中年のおじさんで、下山道ということを分かったうえで登っているという・・・が、本当かな。ちょっと疑わしい。行き会ったのは吉野屋の上辺りでまだ傾斜もさほどではなく、歩行技術がしっかりしていれば難しくはないが、その先はかなりの急傾斜が待ち受けている。

須走ルートの登山道は歩きやすい道なので、滑りやすい下山道をわざわざ登る意味が分からない。
勝手な想像だが、暗い中を登って来たので道を間違えて下山道と知らずに登ってしまっていたのではないか。話をして別れたあとも下山道を登って行ったようだが、さて、その人はどこまで行ったのか。山頂は極寒の世界で、御来光登山が安易に出来る時期ではないのだが。

23:10須走口五合目

山頂から5合目まで、3時間35分。

~23:20食事休憩

軽く食事を摂って下山を続ける。

23:30小富士

真っ暗な森の中を一人歩くのは寂しいものだ。

1906ピークからは例の石だらけの尾根を下って行くが、ここでまた想像も出来ない光景に出会った。尾根の先には小山町の街明かりが見えているのだが、その手前、まさにこれから降りていこうとしているグランドキャニオンの上辺りに、真っ黒い雲が横たわる竜のようにシルエットを浮かびあがらせている。
夜間登山は何度もしているが、こんな不気味な光景を見るのは初めてだ。しかも、行く手に待ち構えているようで、その先は豪雨になっている可能性が高い。しかし、真っ黒な雲の下に雨らしき筋は見えず、向こう側の夜景がハッキリ見通せる。

結果的には、その雲の下でも雨は降っていなかったようだが、その先に進むのを躊躇するほど恐ろしい光景だった。どうせカメラには写らないだろうと写真は撮らなかったが、今思えばもったいないことをした。あんな光景は何度も見られるものではないだろう。

その雲の竜を見ながら降りていくが、実はもっと現実的な窮地に陥っていることに気づかされることになる。石だらけの尾根からどこで尾根を外れて森に入っていくか、その場所が分からないのだ。何しろ、尾根の上は石が転がるばかりで、道標など全く無い。僅かな記憶とカンを頼りに尾根を外れて降りてみたが、見事に失敗。下に下りても周りを見回してもみても道らしきものは全くない。ザレた斜面は降りるのは楽で簡単だが、登り返すときはとんでもなく苦労させられた。

どうも、尾根から外れるのが早すぎたようで、さらに尾根を下っていくと、なんとか森への入口へ辿り着くことが出来た。
これは、グランドキャニオンから旧馬返しへ戻るときも同じだった。立ち入り禁止のロープの場所から、どのように戻ればいいのか、目印となるようなものを記憶していなかったのだ。あぁ、迂闊。道標も踏み跡もない登山では、ちゃんとルートの目印を自分で見つけて覚えておかないと、ただ同じ道を戻るだけのことでも難しい。

遭難するような場所ではないし、そうならないための装備も準備して来てはいるが、やはり道迷いは不安な気持ちにさせられるものだ。
このルートを訪れる人は、私の失敗を教訓に安全な登山を行って欲しい。

13日 1:00旧馬返し

登山口に戻るころには、もうヘトヘトだ。だが、想像以上に刺激的で楽しい登山であった。やっぱり富士山は5合目から登るだけではもったいない。みなさん、富士山の楽しみ方のひとつとして麓からの散策も検討してみてはいかが。そのときは、地図とコンパスもお忘れなく。

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