富士山にいつ登るかを決めるのに、天気予報は重要な情報となります。しかし、「晴れていれば大丈夫」というものでもありません。晴れ、雨、だけでなく、風の強さにも注意を払ってください。
一般に、風速が1m/s強まるごとに体感温度は1℃下がると言われています。雨や汗で身体が濡れていると、風によってさらに体温が奪われ、低体温症により疲労凍死するなど生死に係わることがあります。これは、脅しではありません。
また、雨を伴わない天気であっても、強風に押されて岩場から足を踏み外したり、飛ばされて来た砂や小石が目に入るなども考えられます。
台風の前後は危険
台風の前後は特に風が強まりますので、一般に「台風一過は良く晴れる」とされていても、風が強いときは登山を避けるべきです。
風速による判断基準
では、どれくらいの風の強さが予想されるときには登山を諦めるべきか、そこが気になるところでしょう。
これは一概には言えませんが、台風の強風域は、15m/s以上の風が吹いている、もしくは吹く可能性がある地域。暴風域が、25m/s以上の風が吹いている、もしくは吹く可能性がある地域とされています。富士山では台風並みの風が吹くことは決して珍しいことではありませんが、さすがに台風の暴風域と同じ風速25m以上の風が予想されるときは、登山を中止する判断が必要でしょう。
また、富士山の登山道は谷筋を登る場面が多いので、思いのほか風を遮ってくれて無風に近いこともあります。ですが、山頂は風を遮る物が少ないので、山頂に出ると急に風が強く感じることがあります。身体を持っていかれそうになるほどの強い風が吹いているときは、山頂の火口壁の上を歩く『お鉢巡り』は諦めるべきでしょう。
実際に、風速25m/s以上ともなると、走行中のトラックが横転するほどの風の強さとされています。
電車の運転基準
なお、JRなど鉄道各社の運転基準として、風速が20m/s以上になると徐行など速度制限を行い、25m/sに達すると運行停止としているところが多いようです。なお、この基準とする数値は瞬間風速ですから、平均風速にするとおよそ10~13m/s以上で徐行、15~17m/s以上で運行停止といったところです。
ビューフォート風力階級表とは、風の強さを客観的に表すために、観測される事象に対応する風速を割り出して階級に分け、表にまとめたものです。
F(藤田)スケールとは、竜巻の強さを建物などの被害状況から事後的に判断する指標です。もちろん、富士山で竜巻は発生しないでしょうが、最大瞬間風速から、その風がどれほど恐ろしいものかを感じて貰う事が出来ると思い、掲載しました。
一般に、瞬間風速は、平均風速/毎時の1.5倍から2倍(ときに3倍以上も)に達するとされています。これまで、日本において観測史上最大の風は富士山山頂で計測された91m/sであり、これを時速になおすと327.6km/hとなります。新幹線から顔を出したところを想像してみてください。小さな砂粒であっても、眼球を直撃すれば失明は免れないでしょう。この日本観測史上最大の風は、富士山山頂で1966年9月25日に記録されています。
富士山では、夏でも最大瞬間風速が33m/s(F1に相当)を超えることは決して珍しいことではなく、2004年8月まで観測されていた富士山山頂における風速の記録では、毎年7~9月の92日間の内、10日弱が平均して観測されています。
F2の竜巻に匹敵する強さの風としては、観測記録が残る最も新しいものとして、2003年8月9日に瞬間風速60.4m/s(217.44km/h)が観測されています。
ちなみに、風圧(風から受ける力)は風速の2乗となりますので、10m/sの風に対して、20m/sの風は2倍ではなく4倍、40m/sでは4倍ではなく16倍になります。