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LastUpdate 2016/04/28

徹底検証!食べる酸素

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富士登山を扱ったサイトやブログでは、食べる酸素や酸素水と呼ばれる商品を、高山病対策に有効として薦めているのを見かけることがあります。そのような製品の効果を2ページに渡って検証します。

はじめに

食べる酸素で高山病予防?

高山病の原因が、主に気圧の低下に伴う酸素量の不足とされることから、近年の富士山登山ブームも相まって、食べる酸素、飲む酸素、酸素水などの、所謂『酸素含有サプリメント・酸素含有飲料』が注目を集めています。果たして、本当にそのような商品が高山病対策に有効なのかどうか。私に出来る範囲で、可能な限り科学的、論理的に検証したページです。

いきなり結論

以下、長く、且つ複雑な内容になるので、最初に結論を記しておきます。

これらの商品に、高山病予防の効果はありません。

食べる酸素や酸素水が「効果あった」という意見も、所謂「プラシーボ(偽薬)効果」というもので、ある種の自己暗示での思い込みによるものです。あるいは、業者による「あくまで個人の感想であり・・・」という但し書きのついた宣伝文句でしかありません。そんなものに頼るよりも、数回深呼吸をした方が遥かに有効です。

そのようなものから酸素を摂取出来たとしても、得られるのは呼吸一回分にも満たない極々限られた量で、尚且つ一過性であり、何時間も登り続ける登山には全く意味を持ちません。

高山病予防に効果があるなんて、誰が言い出した?

そもそも、商品説明ではどこにも「高山病の防止、治療に効果がある」などとは書いていません。書かれていないのに、「酸素」という言葉に反応して、噂が一人歩きしているようです。もしもそのような効果が確かめられたら、販売業者が真っ先に宣伝文句に利用するでしょう。

現実には、「疲労回復」「ストレス解消」「リフレッシュ」などの、検証しがたい、どうにでも取れる表現ばかりです。登山に絡めて奨める場合も、「富士登山のお供に」「スポーツのときに」などのように、その製品によって具体的に何か効果があるとは書かれていません。

大体この手の商品(いわゆる健康食品)の多くは、具体的な効果、効能、原理などは曖昧にして、何か身体に良いようなイメージだけを前面に出しているものです。食べる酸素、飲む酸素もその類の商品であることに、疑いありません。

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飲む酸素の効果とは?

酸素サプリメーカーの考えは?

一例をあげましょう。

以下は、「酸素プラス」という製品を販売している日本食研のサイトから引用した文章です。

Check Point!

日本食研 お客様相談室 「よくあるお問い合わせ」より

Q.酸素プラスって、飲むとどんな効果があるの?

A.本品は、水に酸素を溶かしこんだだけの一般食品ですので、効果・効能については申し上げられません。

本当に効果があるなら大々的に宣伝します

「申し上げられない」そうです。

但し、このような文章は、商品説明や宣伝文に使われることは決してありません。

販売する側からすると、高山病予防に限らず健康に何か良い効果があると「勝手に誤解している」のは消費者であるという理屈も成り立つと思っているのかも知れません。しかし、そのような誤解を生むように仕向けている販売会社やメーカーがあることも事実です。少なくとも、消費者に誤解を与えないように配慮しているとは、私にはとても思えません。

日本食研は大きな会社ですから、正直に書いているだけまだ良い方です(責任を追及されたときの言い訳を先にしているだけとも言えますが)。

無責任な会社は、ありもしない効用をまことしやかに謳っていますが、決して騙されてはいけません。それでは、これらの商品を具体的に検証していきましょう。

(※注意:素人の書いたことなので、表現や数値の取り方が的確ではない可能性があります。が、大筋では間違っていないはずです。)

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高山病予防に必要な酸素量

一分間で400mlの酸素が不足(安静時)

これらの商品を理解する前提として、高山病を予防するためにどれだけの酸素を必要とするか、まずはそこから確認しておく必要があります。

成人男性の一回の呼吸量は安静時でおよそ500mlとされています。そして1分間で12~20回程度の呼吸を行っていますから、[6~10ℓ/min]となります。大気中の酸素濃度は約21%ですから、1分の呼吸で1.2~2.1ℓの酸素を取り込んでいることになります。

そして、富士山山頂の酸素分圧は平地の3分の2ですから、そのうち3分の1が不足していることになります。つまり、富士山の山頂では1分あたり0.4~0.7ℓの酸素が不足する計算です。

ざっくり言って、この不足分を、食べる酸素や酸素水で補うことが出来れば、高山病予防に効果があると言っていいでしょう。

以下の検証では、分かりやすくするために必要量の最小値を取り、1分間あたり400mlを必要量として説明していきます。

もっと詳細に検討すると、高山病を予防するのに不足分の100%は必ずしも必要ないんじゃないかとか、登山は運動なんだから安静時じゃなくて運動時の呼吸量で計算すべきとか、呼吸酸素量ではなく酸素消費量で考えるべきとか色々ありますが、言い出すとキリがないので、検証に必要であればそれでいいとして、ざっくりとした数字を使っています。

細かい計算は抜きで、[400ml/min]という数字だけ覚えておいてくだされば結構です。

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食べる酸素・飲む酸素とは

誤解を生む商品名称

一般に、食べる酸素として知られている製品は、タブレット(=錠剤・ペレット)形状の健康食品として売られています。また、飲む酸素はペットボトルに入った無色透明の水として売られています。

では、『食べる酸素』、『飲む酸素』という名称から、みなさんは何を連想しますか?

文字だけの印象からすると、「通常人間が呼吸する以上の酸素が得られる食品」。このように受け取られる方が多いと思われます。では、食べる酸素・飲む酸素は本当にそのような製品なのでしょうか?あるいは違う効果を持った製品なのでしょうか?

質問サイトなどでは、ときに「食べる酸素(飲む酸素)にはどれくらいの酸素が入っているのですか?」というような質問を見かけます。わざわざ「食べる(飲む)」酸素と謳っているからには、さぞかし多くの酸素が入っているのだろうと思うのは当然です。しかし、食べる酸素や飲む酸素には、富士山のような高所で不足する酸素を補うだけの酸素は入っていません。

それでも、食べる酸素・飲む酸素という商品名からたくさんの酸素が入っていると誤解する人が多いようなので、まずは食べる酸素一錠分にどれだけの酸素が入っているのか検証してみましょう。

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食べる酸素には酸素がどれだけ入ってる?

酸素の容器としては小さ過ぎる


タブレットって小さいよ
(image from 写真素材 足成)

普通に考えれば、わずか1cm3(1cc)あるかないかの大きさであるタブレットの形をした食べる酸素に、その容積以上の量の酸素が入ってるわけはありません。

そのような小さい容積に大量の酸素を入れるには、『圧縮』して入れる必要があります。圧縮とは大きな圧力を掛けて体積を小さくすることであり、身近な例をあげると炭酸飲料に入った炭酸ガスがあります。

炭酸飲料は、2~3気圧程度の圧力を掛けて、飲料水の中に通常含まれる以上の二酸化炭素(炭酸ガス)を封入しています。大雑把に言えば気圧の倍数分の気体が入っていることになるので、炭酸飲料に溶け込んでいる二酸化酸素は同じ容積に対して2~3倍の炭酸ガスが入っているということになります。

例えば、1ℓ(リットル)の水の中に1.2ℓの二酸化炭素が溶け込んでいるとして、同じ1ℓの容積に2.4ℓ分の二酸化炭素を入れるには、2気圧分の圧力を掛ける必要があるということです。

タブレットに酸素を入れることは出来ない

では、主に錠剤の形で売られている食べる酸素に圧縮した酸素を入れて、錠剤の外に出ないように留めておくことが可能でしょうか?

いいえ、それは不可能です。

炭酸飲料でも、フタを開けたとたんにシュワシュワと炭酸の泡が出ますよね。あれは、ペットボトルに封じ込められていた高圧の気体が、より気圧の低い外気の方へ抜け出ているのです。

食べる酸素の錠剤は、ペットボトルのように気体を通さない容器とはなりえませんから、仮に錠剤に圧力を掛けて酸素を封入しようとしても、入れたそばから抜け出ていくのは説明するまでもないでしょう。

仮に超高圧で入れられても、1分しか持たない

では、仮に食べる酸素に高圧で酸素が封入出来たとして、どれだけの量を入れられたら高所で不足する酸素を補うことが出来るでしょうか?

先の項目で計算したように、富士山山頂で不足する酸素量は、1分あたり400mlです。

タブレットの容積を仮に1ccとして、さらにその中が空っぽの空洞であると仮定すると、400気圧で酸素を封入出来れば高山病を予防するための1分間分の酸素量が、食べる酸素タブレットから得られるということになります。

逆に言えば、仮に400気圧で酸素をタブレットに封入出来たとしても、それはたかだか1分の量に過ぎないということです。

しかも、これは安静時の話です。運動時には安静時の5~10倍もの呼吸量を必要とするので、1分ごとに少なくとも5錠の食べる酸素を食べ続けなくてはいけません。実に1時間あたり、300錠が必要という計算になります。

ボンベでも150気圧


高圧で封入するには頑丈な容器が必要
(image from 写真素材 足成)

400気圧といってもピンとこないかも知れませんが、スキューバダイビングに使われる空気ボンベには150気圧で空気が圧縮充填されています。空気ボンベに触ったことが無い人でも、ボンベが頑丈な金属で作られていることは知っているでしょう。

150気圧程度であっても、これだけ頑丈な容器が必要だということです。もちろん、食べる酸素のタブレットがそんな頑丈な容器だったら食べられませんよね。

以上の説明で、「食べる酸素そのものに酸素がいっぱい入っている」ということはありえないとご理解いただけたと思います。

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食べる酸素・飲む酸素の安全性

メーカーの宣伝文句

先にも書いたように、食べる酸素で呼吸により得られる以上の酸素を摂取することは不可能です。では、このような製品を製造している会社が謳っている効果とはどのようなものでしょうか?
恐らく、この手の商品では最も有名と思われる、ゴールド興産の『O2食べる酸素』で見てみましょう。

面白いことに、食べる酸素にどのような効用があるかは具体的には述べられていません。曰く、「健康な生活の手助けをします。」とか、「健康でイキイキとした毎日を過ごすために役立てて下さい。」など、どうとでも受け取れる曖昧な文言だけです。

そこで、食べる酸素と同様の成分を含む、『飲む酸素』の説明を見てみると、製品に含まれるバナジウムやゲルマニウムで酸素の運搬能力を高めると説明されています。しかし、これも額面どおり受け取ることは出来ません。そのような効能を証明する科学的、医学的なデータは今のところ無いようです。もちろん、ゴールド興産のサイトでも実証データは一切示されていません。

それでも、食べる酸素・飲む酸素に害が無ければ、それらを摂取するのは「ご自由に」と言えます。しかし、実際には必ずしも悪影響がないとは言えないのです。

成分の安全性に疑問あり

影響が無いどころか、『食べる酸素』『飲む酸素』に含まれるバナジウムは、「サプリメント等の形態での過剰摂取は危険性がある」と示唆されており、「小児、妊娠中および授乳中の女性は上限値が設定できないため、食品由来以外のバナジウムは摂取しないこと」とされています。

同様に『食べる酸素』『飲む酸素』に含まれるゲルマニウムについては、深刻な健康被害(死に至るケース)も報告されているようです。

これは、すでに昭和63年に厚生省(当時)によって通達も出されています。(※注意:ゴールド興産の『食べる酸素』『飲む酸素』だけではなく、他社が製造販売している酸素水にもバナジウムやゲルマニウムを含む商品があります)

公的な機関によって、このような通知が為されているにも係わらず、これらの物質を含有する食品、飲料水を販売する会社では、「乳児の粉ミルク用に最適」「妊娠中の女性でも安心」などと未だに宣伝しているのが現状です。(なお、食べる酸素などとは関係なく、妊娠中、あるいは妊娠の疑いのある女性や乳幼児が、富士山のような気圧や気温の変化が大きい場所へ登られることはオススメしません。)

attention!

国立健康・栄養研究所 「ゲルマニウムに関する情報」より引用

<前略>

ゲルマニウムが濃縮されたり、高濃度に添加されたりしている"いわゆる健康食品"を摂取した場合、無機・有機に関わりなく生死に関わる副作用が起きる可能性が否定できません。特に"いわゆる健康食品"では、品質の不確かな製品、表示内容と内容物が一致していない製品も流通しているという問題があります。したがって、消費者の方が巷の不確かな情報を頼りにしてゲルマニウムが添加された製品を積極的に利用することは、現時点ではあまりおすすめできません。
ゲルマニウムの効能については、医薬品として承認されているプロパゲルマニウムを除き、その科学的根拠のある有効性・安全性の情報はほとんど見当たりません。また、ゲルマニウムを通常の食品以外の濃縮物や添加物として摂取した場合、生死に関わるような重篤な副作用も起こります。

<後略>

(※太字及び赤字、青字は当サイトによる)

(※お断り:当該サイトでは引用が禁止されていますが、内容の重要性、公益性に鑑み、あえて引用致しました。)

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健康食品業者の手口

ウソ、大げさ、紛らわしい

酸素サプリに限った話ではないですが、健康食品の宣伝を見ていると、『FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を受けている健康食品です』などと謳っている製品(飲む酸素BIO2など)を見かけます。
これを見た人は、「アメリカ政府が品質や安全性を保証しているんだ」と思うでしょう。ですが、これは大きな間違いです。

Check Point!

FDAが健康食品(サプリメント・栄養補助食品)を認可?

FDA(Food and Drug Administration)は、アメリカの政府機関です。

このFDAは、業務として医療機器や医薬品については審査や検査を行って許可を出していますが、いわゆる健康食品と称される製品に対して、個別に認可(許可)を与えたり評価を行うことはありません(*註)。アメリカ国内で消費される食品(サプリメント含む)の製造や加工、包装、保管などを行う場合に必要とされているのは、FDAへの『登録』です。

FDAへの登録では、医薬品の治験(ちけん)のように成分の安全性を確認する必要が無いため、健康食品と称される製品の安全性や効果、効能をなんら保証するものではありません。しかも、『登録』を『認可』と偽るのは明らかな詐欺行為です。

もしも、「この製品はFDAに認可された健康食品です」などという広告を見つけたら、そのような宣伝を行っている業者は、「自分たちは詐欺を行っています」と宣言しているようなものです。このような会社やお店から商品を購入するのは絶対にやめましょう。こういう会社は、むしろ安全を軽視している可能性がとても高いからです。

このような手法は「権威商法」と呼ばれ、悪徳商法の一手段として利用されています。

モンドセレクション金賞受賞」、「グッドデザイン賞」なども、悪徳とまでは言えないにしても同様の手法で利用される良くあるパターンのひとつです。

芸能人や著名人が出てきて、「私も毎日飲んでます」なんてのも、権威商法の一種ですね。有名人が飲んでいるからといって、なんら効能を保証するものではありません。というか、そもそも本当に飲んでいるか、怪しいものです。あくまでCM、つまり宣伝広告として『対価を貰って』言わされているだけなのですから。

(*註:但し、単体の食品及び、食品に含まれる成分については、健康強調表示(ヘルスクレーム)の許可に関して安全性や効果の表示に対する認可が行われています。例えば、「カルシウムは骨粗鬆症予防に効果あり」といった表示を認めるもので、個別の製品の効果を認めて許認可を与えるものではありません。その他、遺伝子組み換え食品、食品添加物については安全審査が行われています。)

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