富士山でバーナーは使用禁止?
富士山では、一般的にバーナーの使用は禁止されていると言われています。しかし、実際に使用を禁止する法的根拠はあるのか、それを検証してみましょう。
富士山では、一般的にバーナーの使用は禁止されていると言われています。しかし、実際に使用を禁止する法的根拠はあるのか、それを検証してみましょう。
国立公園内はバーナー禁止?
火の取り扱いには注意 (image from 写真素材 足成)
バーナーとは、主にキャンプや登山などのアウトドアで使う携帯型(持ち運び可能)の調理器具のことで、ストーブやコンロ、火器など呼び方も色々ありますが、基本的に火を使って調理する道具であることに変わりありません。
では、なぜバーナーを富士山で使ってはいけないと言われているのか。主な論拠は、富士山が国立公園に指定されていることのようです。まず、本当に国立公園内でのバーナー使用が禁止されているのでしょうか?
特別保護地区
自然公園法は、「この法律は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。」として、国立公園内を『普通地域』、『特別地域』、『特別保護地区』『乗り入れ規制地区』に区分けしています。
富士山は、富士箱根伊豆国立公園に指定されており、標高2,300m以上(概ね5合目から上)が『特別保護地区』に定められています。この特別保護地区は、最も規制ランクの厳しいエリアであり、禁止事項が細かく決められています。その中で、火器の取り扱いについて書かれているのは、以下の条文です。
禁止行為の野焼き
自衛隊東富士演習場の野焼き (image from 四季の富士)
ここに書かれた『火入れ』とは、いわゆる『野焼き』のことです。
野焼きとは、焼畑農法や、そのままでは自然に森林化する場所を、草地として人工的に維持、利用するために行われたり、野焼きそのものが目的化した観光イベントとして行われているものもあります。
いずれにしても、富士山の5合目から上はほとんど森林限界を越えていますし、野焼きをする理由もないので、この際は無関係と言っていいでしょう。
禁止行為の焚き火
焚き火 (image from 写真素材 足成)
一方、『焚き火』は、この場合は『直火(じかび)』を意味し、地面で直接物を燃やす行為を指します。
直火を行うと、枯れ木や枯れ草に延焼して山火事を起こす恐れがあり、土中の微生物にも影響を与えることから禁止されているものと思われます。
さて、焚き火が禁止されていることは分かりましたが、バーナーを使う行為は禁止とは明記されていないようです。ですが、禁止されていないから使用してもいいものか、富士山と同じく特別保護地区に指定されている、吉野熊野国立公園西大台地区での議論を参考に見てみましょう。
国立公園内でもバーナーは使用出来る
このように、特別保護地区である西大台では、環境省も個人用火器(バーナー・コンロ)の使用は規制されないと言い切っています。
もちろん、西大台で使えるからといって富士山でも同じであるという短絡的なものではありませんが、少なくとも「国立公園であるから禁止」という説明に根拠が無く、あるいは自然公園法、特別保護地区などを理由に個人用火器の使用が規制されているというのも正しくないことは確かなようです。
自由には責任が伴う
タバコの火の不始末で人を殺してしまうかも知れない (image from 写真素材 足成)
ここで勘違いして欲しくないのは、「禁止されていないのだから、どういう使い方をしてもいい」ということでは決して無いということです。
先の議論でも、駐車場など混雑する場所でのバーベキューが問題視されているように、他人に迷惑をかけないということは大前提です。ましてや、火事を起こして人を危険に晒すことの無いように、その取り扱いには細心の注意を払う義務と責任があります。
火器使用のルール
山小屋や燃えやすいもの(落ち葉、枯れ枝など)の近くで火を扱うのは避けましょう。調理中は水を手元に用意し、その場を離れてはいけません。特に、風の強い日には器具の転倒や飛び火にも注意が必要です。夜明け前の山頂など、混雑した場所での使用も控えるべきです。もちろん、人ごみを避けて安全な場所に移動すれば問題ないでしょう。
ベンチやテーブルの上で携帯コンロを使うときも注意が必要です。特に、バーナーヘッドが分離型のアルコールストーブなどは、火器と天板が近いのでテーブルを焦がさないようにバーナーシートを下に敷いて使うことが必須条件です。
時折、「風が強いときは、建物の陰に入って煮炊きすればよい」などと言う人を見かけますが、これは絶対にやってはいけない行為です。
風が強いときに火を扱って、万が一建物に火の粉が飛び、燃え移ったら一体何が起こるか、想像してみて下さい。例え小さな火の粉であっても、乾燥した高所では一度燃え移った炎は風に煽られて瞬く間に燃え広がり、建物はあっという間に炎に包まれるでしょう。これが、夜間に宿泊客で一杯の山小屋であったとしたら・・・
山には消防車は来られず、火を消す水もありません。消せない火は最初から使わない、というのは当たり前のことでしょう。富士山のように風が強いことが予想される場所であれば、持ち運びの風防を準備するのが登山者の暗黙のルールであり、常識です。
タバコやめますか?それとも登山やめますか?
これは、タバコの喫煙でも同じことです。
登山の間ぐらい我慢出来ないのであれば、完全に中毒症状です。仮に吸うにしても、山小屋や樹木など燃えやすいものからは離れ、他人の迷惑にならないように風下に移動し、吸殻は携帯灰皿に完全に消火されたことを確認してから捨ててください。吸殻のポイ捨てなどもっての他ですし、トイレなど狭い空間にこもっての喫煙もやめてください。
山小屋には管理義務がある
山小屋の近くで携帯コンロなどを使用していると、山小屋の従業員に注意されることがあるかも知れません。
山小屋の『周囲』での使用まで規制する権限が山小屋にあるかどうかはさておき、山小屋には管理責任があり、利用客や従業員を火災などから未然に防ぐため、登山者に注意を促すのは当然の権利であり義務でもあります。法律的に規制されていないからといって、注意を無視してどこで使ってもいいということではないのです。
どうしても山小屋の周囲で使いたいのであれば、一言山小屋に許可を取るべきでしょう。これはマナー以前の『常識』であることを、念のため申し添えておきます。